在唐記
圓仁記
短上の阿。以下、初字は皆な短の上。
長の阿。口を開て之を呼べ。初め去、後ち平の勢。以下、第二字は皆な之に准じて之を呼べ。
短の伊上
長の伊。初め去、後ち平。
短の乎。々字は本鄕の音を以て之を呼べ。下、之に准ず。
長の乎。
短の衣。々字は本鄕の音を以て之を呼べ。下、之に准ず。
長の哀。々字は本鄕の音を以て之を呼べ。初め阿、後ち伊の勢。
短の於。々字は本鄕の音を以て之を呼べ。
長の奥。初め是れ阿の聲、後ち是れ本鄕の乎字の聲。
短。阿暗の反。
短の阿。此の阿聲は是れ本鄕の阿字の音に似たり。氣を放て急切に呼べ。初めの短の阿の聲に同じからず。
短の阿哩。齒、大いに開かず合して呼べ。下の長の阿里、准ぜよ。
長。阿利。
短の離。々字は本鄕の音を以て之を呼べ。齒、大いに開かず合して之を呼べ。長の離、之に准ぜよ。
長の離。
本鄕の加音を以て之を呼べ。下字も亦た然なり。以下の諸字、皆な去に之を呼べ。
斷氣して之を呼べ。
本鄕の我字の音。下の字も亦た然なり。但し、皆な是れ去聲。
斷氣して之を呼べ。
本鄕の鼻音の我字の音に之を呼べ。
本鄕の佐字の音の勢に之を呼べ。下字も亦た然なり。但し皆な去聲。此の字、輕微に之を呼べ。下字は重聲に之を呼べ。
斷氣して之を呼べ。
引佐の反。下の字、此に准じて之を呼べ。
斷氣して之を呼べ。
爾也の反。爾也の兩字、本鄕の音を以て之を呼べ。
吒。舌音の吒字。唐音を以て之を呼べ。姹字、亦た然なり。
姹。斷氣して之を呼べ。
拏。本鄕の陀字の音勢を以て之を呼べ。但し舌を加ふ。下の荼。
荼。此の字、斷氣せよ。
拏。鼻音。上下の齒、開かず合して之を呼んで阿奈と云ふ。此の阿奈の兩字、本鄕の音を用ふ。
哆。齒音。本鄕の多字の音を以て之を呼べ。下の字も亦た然なり。但し皆な齒音を加ふ。
他。斷氣せよ。
本鄕の陀字の音を以て之を呼べ。伹し齒を加ふ。下の字も亦た然なり。齒音を加ふ。
陀。斷氣せよ。
本鄕の陀〈那の写誤〉字の音を以て之を呼べ。伹し鼻音を加ふ。
唇音。本鄕の波字の音を以て、之を呼べ。下の字も亦た然なり。皆な唇音を加ふ。
波。斷氣して之を呼べ。
本鄕の婆字の音を以て之を呼べ。下の字も亦た然なり。
婆。斷氣して之を呼べ。
但だ本鄕の麻字の音を用て之を呼べ。但し鼻音を加ふ。
伊野の反。以下の諸字、皆な去聲。
阿羅の反。
本鄕の羅字の音を以て之を呼べ。
本鄕の婆字の音を以て之を呼べ。向前の婆字は是れ重。今の此の婆字は是れ輕。有る人、唐國の嚩音を以て之を呼ぶ。甚だ錯りなり。問ふ、兩婆字の其の樣の圖、何の異りか有るや。菩提三藏答へ有て云て曰く、前の婆字は懷裏濶く、此の婆字は裏、狹なりと。
本鄕の沙字の音を以て之を呼べ。伹し唇・齒、大いに開かず、合して之を呼べ。
大唐の沙字の音勢を以て之を呼べ。伹し是れ去聲。唇・齒、大いに開かず、合して之を呼べ。
大唐の娑字の音勢を以て之を呼べ。但し去聲に之を呼べ。
大唐の賀字の音勢を以て之を呼べ。
呂牟の反。兩字、本鄕の音を以て之を呼べ。
葛叉。兩字、唐國の音に依て之を呼べ。已上字母、南天の寶月三藏に隨て學び得たり。
在唐記
円仁記
短上の阿〈あ / a〉。以下、初字はすべて短の上声。
長の阿。口を開いてこれを発音せよ〈あ / ā〉。(支那の四声でその調子を言えば)初めは去声、後ちは平声の勢。以下、第二字はすべてこれに准じて発声せよ。
短の伊上〈い / i〉
長の伊〈い / ī〉。初め去、後ち平。
短の乎。乎字は本郷〈日本〉の音によって発声せよ〈う / u〉。以下、これに准ず。
長の乎〈う / ū〉。
短の衣。衣字は本鄕の音によって発声せよ〈え / e〉。以下、これに准ず。
長の哀。哀字は本鄕の音によって発声せよ〈あい / ai〉。初め阿、後ち伊の勢。
短の於。於字は本鄕の音によって発声せよ〈お / o〉。
長の奥。初めは阿の声、後ちは本鄕の乎字の声〈あう / au〉。
短。阿暗の反〈あん / an〉。
短の阿。この阿声は本鄕の阿字の音に似ている。呼気を放って急切に発声せよ〈あっ / aḥ〉。初めの短の阿の声と同じではない。
短の阿哩。歯を大いに開かず合せて発声せよ〈あり / ṛ〉。下の長の阿里も准ぜよ。
長。阿利〈あり / ṝ〉。
短の離。離字は本鄕の音によって発声せよ。歯を大いに開かず合せて発声せよ〈り / ḷ〉。長の離もこれに准ぜよ。
長の離〈り / ḹ〉。
本鄕の加音〈か / ka〉によって発声せよ。下字もまた同様である。以下の諸字はすべて去声で発声せよ。
断気〈有気音とすること〉して(本郷の「加」を)発声せよ〈か / kha〉。
本鄕の我字の音〈が / ga〉。下の字もまた同様。ただし、すべて去声。
断気して(本郷の「我」を)発声せよ〈が / gha〉。
本鄕の鼻音の我字の音で発声せよ〈んが / ṅa〉。
本鄕の佐字の音の勢で発声せよ〈ちゃ / ca〉。下字もまた同様。ただし、すべて去声。この字は軽微に発声せよ。下字は重声に発声せよ。
断気して(本郷の「佐」を)発声せよ〈ちゃ / cha〉。
引佐の反〈要考証 / ja〉。下の字、これに准じて発声せよ。
断気して(本郷の「引佐の反」を)発声せよ〈要考証 / jha〉。
爾也の反。爾也の両字は本鄕の音で発声せよ〈にや / niya〉。
吒。舌音の吒字。唐音によって発声せよ〈ṭa〉。姹字もまた同様。
姹。断気して発声せよ〈ṭha〉。
拏。本鄕の陀字の音勢で発声せよ〈だ / ḍa〉。ただし舌を加える。下の荼(もまた同様)。
荼。この字は断気せよ〈だ / ḍha〉。
拏。鼻音。上下の歯を開かず合せて発声して、阿奈と云う。この阿奈の両字は本鄕の音を用いる〈あな / ana〉。
哆。歯音。本鄕の多字によって発声せよ〈た / ta〉。下の字もまた同様。ただしすべて歯音を加える。
他。断気せよ〈た / tha〉。
本鄕の陀字の音によって発声せよ〈だ / da〉。ただし歯音を加える。下の字もまた同様。歯音を加える。
陀。断気せよ。
本鄕の那字の音によって発声せよ〈な / na〉。ただし鼻音を加える。
唇音。本鄕の波字の音によって発声せよ〈ぱ / pa〉。下の字もまた同様。すべて唇音を加える。
波。断気して発声せよ〈ぱ / pha〉。
本鄕の婆字の音によって発音せよ〈ば / ba〉。下の字もまた同様。
婆。断気して発声せよ〈ば / bha〉。
ただし本鄕の麻字の音を用いて発声せよ〈ま / ma〉。ただし鼻音を加える。
伊野の反〈ya〉。以下の諸字はすべて去声。
阿羅の反〈ala〉。
本鄕の羅字の音によって発声せよ〈ら / la〉。
本鄕の婆字の音によって発声せよ〈ば / ba〉。向前の婆字は重、今のこの婆字は軽。ある人は唐国の嚩音によって発声している。甚だ錯りである。問う、両つの婆字のその字形は、どのような異りがあるのか。菩提三蔵〈Vajrabodhi(金剛智)三蔵?〉の答えがあって、それに云うには、前の婆字は懐裏が濶く、この婆字は裏が狹いとのことである。
本鄕の沙字の音によって発声せよ。ただし唇と歯を大いに開かず合せて発声せよ〈しゃ / śa〉。
大唐の沙字の音勢によって発声せよ。ただし去声。唇と歯を大いに開かず、合せて発声せよ〈ṣa〉。
大唐の娑字の音勢によって発声せよ〈sa〉。ただし去声で発声せよ。
大唐の賀字の音勢によって発声せよ〈ha〉。
呂牟の反。両字、本鄕の音によって発声せよ〈らむ / lamu〉。
葛叉。両字、唐国の音に依って発声せよ〈kṣa〉。
以上の字母は南天の宝月〈Ratnacandra〉三蔵にしたがって学び得たものである。