VIVEKA For All Buddhist Studies.
Dharmacakra
智慧之大海 ―去聖の為に絶学を継ぐ

『四分律』 衣揵度

原文

四分律卷第四十 三分之四

姚秦罽賓三藏佛陀耶舍共竺佛念等譯

衣揵度之二

爾時瓶沙王。患大便道中血出。諸侍女見皆共笑言。王今所患如我女人。時王瓶沙聞已慚愧。即喚無畏王子言。我今有如是病。汝可爲我覓醫。即答王言。有耆婆童子。善於醫道。能治王病。王言喚來。無畏王子喚耆婆來。問言。汝能治王病不。答言能治。若能汝可往治之。時耆婆童子。往瓶沙王所。前禮王足却住一面。問王言。何所患苦。王答言。病如是如是。復問。病從何起。王答言。從如是如是起。復問。患來久近。王言。患來爾許時。如此問已。答言能治。時即取鐵槽盛滿煖水。語瓶沙王言。入此水中。王即入水。語王坐水中。王即坐。語王臥水中。王即臥。時耆婆。以水灑王而呪之。王即睡。疾疾却水。即取利刀破王所苦處。淨洗瘡已。持好藥塗。藥塗竟。病除瘡愈。其處毛生。與無瘡處不別。即復還滿槽水。以水灑王而呪之。王即覺。王言。可治我病。答言。我已治竟。王言善治不。答言善治。王即以手捫摸看。亦不知瘡處。王即問言。汝云何治病。乃使無有瘡處。耆婆報言。我治病寧可令有瘡處耶。時王即集諸侍女作如是言。耆婆醫大利益我有念我者。當大與財寶。時諸侍女。即取種種瓔珞臂脚釧及覆形密寶形外寶錢及金銀摩尼眞珠毘琉璃貝玉頗梨積爲大聚。時王喚耆婆來語言。汝治我病差。以此物報恩。耆婆言。大王且止。便爲供養已。我爲無畏王子故治王病。王言。汝不得治餘人病。唯治我病佛及比丘僧宮内人。此是耆婆童子第二治病也

爾時王舍城有長者。常患頭痛。無有醫能治者。時有一醫語長者言。却後七年當死。或有言六年。或言五年。乃至一年當死者。或有醫言。七月後當死。或言六月乃至一月當死。或有言過七日後當死者。時長者自往耆婆童子所語言。爲我治病。當雇汝百千兩金。答言不能。復重語言。與汝二百三百四百千兩金。答言不能。復言當爲汝作奴家業一切亦皆屬汝。耆婆言。我不以財寶少故不能治汝。以王瓶沙先勅我言汝唯治我病佛及比丘僧宮中人不得治餘人。是故不能。汝今可往白王。時彼長者。即往白王言。我今有病。願王聽耆婆治我病。時王即喚耆婆語言。王舍城中有長者病。汝能治不。答言能治。汝若能者可往治。爾時耆婆。即往長者家語言。何所患苦。答言。所患如是如是。復問言。從何而起。答言。從如是如是起。問言。得來久近。答言。病來爾許。時問已語言。我能治汝。爾時耆婆。即與鹹食令渇飮酒令醉。繋其身在床。集其親里。取利刀破頭開頂骨示其親里。蟲滿頭中。此是病也。耆婆語諸人言。如先醫言。七年後當死。彼作是意。七年已後腦盡當死。彼醫如是爲不善見。或言六五四三二年一年當死者。彼作是意。腦盡當死。彼亦不善見。或言七月乃至一月當死者。彼亦不善見。有言。七日當死者。彼作是意言。腦盡當死。彼爲善見。若今不治過七日腦盡當死。時耆婆。淨除頭中病已以酥蜜置滿頭中已。還合髑髏縫之。以好藥塗。即時病除肉滿。還復毛生。與無瘡處不異。耆婆語言。汝憶先要不。答言憶。我先有此要。當爲汝作奴家業一切悉當屬汝。耆婆言。且止長者。便爲供養已。還用初語。時彼長者。即與四十萬兩金。耆婆以一百千兩上王。百千兩與父。二百千兩自入。此是耆婆第三治病。

爾時拘睒彌國。有長者子。輪上嬉戲。腸結腹内食飮不消亦不得出。彼國無能治者。彼聞摩竭國有大醫善能治病。即遣使白王。拘睒彌長者子病。耆婆能治。願王遣來。時瓶沙王。喚耆婆問言。拘睒彌長者子病。汝能治不。答言能。若能者。汝可往治之。時耆婆童子。乘車詣拘睒彌。耆婆始至。長者子已死。伎樂送出。耆婆聞聲即問言。此是何等伎樂鼓聲。傍人答言。是汝所爲來。長者子已死。是彼伎樂音聲。耆婆童子。善能分別一切音聲。即言語使迴還。此非死人語。已即便迴還。時耆婆童子。即下車取利刀破腹披腸結處。示其父母諸親語言。此是輪上嬉戲使腸結。如是食飮不消。非是死也。即爲解腸。還復本處。縫皮肉合。以好藥塗之。瘡即愈毛還生。與無瘡處不異。時長者子。即報耆婆四十萬兩金。婦亦與四十萬兩金。長者父母亦爾。各與四十萬兩金。是耆婆童子。第四治病。

爾時尉禪國王。波羅殊提。十二年中常患頭痛。無有醫能治者。彼聞瓶沙王有好醫善能治病。即遣使白王。我今有病。耆婆能治。願遣來爲我治之。時王即喚耆婆問言。汝能治波羅殊提病不。答言能。汝可往治之。王語言。彼王從蠍中來。汝好自護。莫自斷命。答言爾。時耆婆童子。往尉禪國。至波羅殊提所。禮足已在一面住。即問王言。何所患苦。答言。如是如是病。問言。病從何起。答言。從如是如是起。問言。病來久近。答言。病來爾許時。次第問已語言。我能治。王言。若以酥若雜酥爲藥。我不能服。若與我雜酥藥。我當殺汝。是病餘藥不治。唯酥則除。耆婆童子。即設方便語王言。我等醫法治病。朝晡晨夜隨意出入。王語耆婆。聽隨意出入。復白王言。若須貴藥。當得急乘騎。願王聽給疾者。是時王即給日行五十由旬駝。即與王醎食令食。於屏處煎酥爲藥。作水色水味已。持與王母語言。王若眠覺。渇須水時。可持此與飮之。持水與王母已。即乘五十由旬駝而去。時王眠覺渇須水。母即持此水藥與之。藥欲消時覺有酥氣。王言。耆婆與我酥飮。是我怨家。何能治我。急往覓來。即往耆婆住處覓之不得。問守門人言。耆婆所在。答言。乘五十由旬駝而去。王益怖懼。以酥飮我。是我怨家。何能治我。時王有一健歩。名曰烏。日行六十由旬。即喚來。王語言。汝能追耆婆童子不。答言能。汝可往喚來。王言。彼耆婆大知技術。莫食其食。或與汝非藥。答言爾。受王教。耆婆童子去至中道。不復畏懼。便住作食。時健歩烏得及耆婆。語耆婆言。王波羅殊提喚汝即言當去。耆婆與烏食不肯食。時耆婆。自食一阿摩勒果留半。飮一器水復留半。爪下安非藥。沈著水果中。語烏言。我已食半果飮半水。餘有半果半水。汝可食之。烏即念言。彼自食半果飮半水。留半與我。此中必當無有非藥。即食半果飮半水已。便患啑不復能去。復取藥著烏前語言。汝某時某時服此藥當差。耆婆童子。即便乘行五十由旬駝復前去。後王與烏所患倶差。波羅殊堤王。遣使喚耆婆語言。汝已治我病差。可來。汝在彼國所得多少。我當加倍與汝。耆婆言。且止。王便爲供養已。我爲瓶沙王故治王病。時波羅殊提。送一貴價衣價直半國。語耆婆言。汝不肯來。今與汝此衣以用相報。此是耆婆第五治病。

爾時世尊患水。語阿難言。我患水欲得除去。時阿難聞世尊言往王舍城。至耆婆所語言。如來患水欲得除之。爾時耆婆。與阿難倶往佛所。頭面禮足却住一面。白佛言。如來患水耶。佛言。如是耆婆。我欲除之。白佛言。欲須幾下。答言。須三十下。時耆婆。與阿難倶往王舍城。取三把優鉢花。還詣其家。取一把花。以藥熏之。并復呪説。如來嗅此可得十下。復取第二把花。以藥熏之。并復呪説。嗅之復可得十下。復取第三把花。以藥熏之。并復呪説。嗅之可得九下。復飮一掌煖水。足得一下風。即隨順以三把花。置阿難手中。時阿難持華出王舍城。詣世尊所。持一把花。授與世尊。如來嗅之。可得十下。復授第二把。更得十下。第三把復得九下。爾時耆婆。忘語阿難與佛煖水。爾時世尊。知耆婆心所念。即喚阿難取煖水來。爾時阿難。聞世尊教。即取煖水與佛。佛即飮一掌煖水。患即消除。風亦隨順。

爾時王瓶沙。聞佛有患。與八萬四千人倶。前後導從詣世尊所。問訊世尊。頭面禮足。却坐一面。時憂填王。聞世尊患。亦將七萬人倶。波羅殊提王。與六萬人倶。梵施王。與五萬人倶。波斯匿王。與四萬人倶。末利夫人。利師達多富羅那。四大天王。及諸營從釋提桓因。與忉利諸天倶。炎天子。與炎天倶。兜率天子。與兜率諸天倶。化樂天與化樂諸天倶。他化自在天。與他化自在天倶。梵天。與梵天倶。摩醯首羅天子。與摩醯首羅諸天倶。往世尊所。頭面禮足。却住一面。時舍利弗。聞世尊病。與五百比丘倶。往世尊所頭面禮足却住一面。爾時摩訶波闍波提比丘尼。聞世尊病。與五百比丘尼倶。阿難賓坻。與五百優婆塞倶。毘舍佉母。與五百優婆夷倶。詣世尊所。頭面禮足。問訊世尊。時提婆達多。聞世尊病。詣世尊所。頭面禮足。却住一面。爾時提婆達多。見世尊前四部衆會。作如是念。我今寧可服藥。如佛令四部衆來問訊我。即往耆婆所語言。我欲服佛所服藥。汝可與我藥。耆婆言。世尊所服此藥。名那羅延。此藥非是餘人所服。除轉輪王。成就菩薩如來乃能服之。提婆達多語言。若不與我。我當害汝。爾時耆婆。畏奪命故。即便與之。提婆達多以服此藥故。即得重病。身心倶苦。獨有一己更無餘人。亦無親厚。作如是念。如我今日無有救者。唯有如來。爾時世尊。知提婆達心念。從耆闍崛山。身出施藥光明。以照提婆達多。使一切苦痛即得休息。爾時提婆達多病差未久。往王舍城巷陌唱令。太子悉達多。捨轉輪王出家爲道。今行醫藥自活。何以知之。適治我病差故知。時諸比丘聞。有少欲知足行頭陀樂學戒知慚愧者。嫌責提婆達多。如來慈愍。而更無反復。爾時比丘。往世尊所頭面禮足已白佛言。未曾有世尊慈愍。提婆達多而更無反復。佛告諸比丘言。非適今日慈愍。提婆達多而無反復。何以故。乃往過去世時。有王名一切施。作閻浮提王。時閻浮提。國土平博人民熾盛豐樂無比。時閻浮提。有八萬四千城。有五十億聚落。有六萬邊城。爾時有病人。詣一切施王所。白王言。我今無有救護。唯有王耳。爾時王集閻浮提諸醫。示此病人。王問諸醫。如此病人當須何藥。諸醫看病已白王言。如此病人。非常所能與藥。唯有成就菩薩能與藥耳。王問爲須何。醫言。此病人若得慈心菩薩生肉生血食之。二十九日乃得差。一切施王心念言。生死長遠輪轉無際受諸苦惱。或墮地獄餓鬼畜生。截脚截手截耳截鼻挑眼斫頭竟何所益。即以國付囑諸臣。入内靜處思四無量行。爾時一切施王。即取利刀割髀裏肉血。使人送與病者。如是經二十九日。後王問使人。病人云何。答王言已差。王言。將來看之。時即爲病人洗浴與新衣著。將詣王所。王問言。汝病云何。答言已差。王言。汝隨意去。時彼人出門。右脚蹴地血出。餘人見之問言。男子汝脚何故血出耶。即言。彼非法王。弊惡王。非法婬著王。貪著樂邪見王。於彼門中脚蹴此閫使我脚壞血出如是。彼諸人言。未曾有無反復人。一切施王。二十九日以身血肉治令得差。而於王所無有反復。佛告諸比丘。爾時一切施王我身是。時病人者。今提婆達多是。我前世時。慈心愍之。而無反復。今亦如是無有反復。爾時世尊。爲提婆達多故。説此偈言

一切諸山海 我不以爲重 
其無反復者 我以此爲重 
無有反復報 癩病惡疾苦 
或受白癩病 無反復如是 

是故諸比丘。應念報恩。應存反復。當如是學。爾時耆婆童子。瞻視世尊病。煮吐下湯藥及野鳥肉得差。是爲耆婆童子第六治病。

訓読

四分律しぶんりつ 卷第四十 三分之四

姚秦ようしん罽賓けいひん三藏佛陀耶舍ぶっだやしゃ竺佛念じくぶつねん等と共に譯す

揵度けんど之二

の時、瓶沙びょうしゃ王、大便道だいべんどう中をわずらひて血もろもろの侍女、皆共にわらて言く、王、今患ふ所は我が女人にょにんの如しと。時に王瓶沙、聞きおわり慚愧ざんきす。即ち無畏むい王子をよびいわく、我れ今まくの如きやまい有り。汝、我が爲にもとむべしと。即ち王にこたえて言く、耆婆ぎば童子有り。醫道を善くす。能く王の病を治せんと。王言く、喚び來れと。無畏王子、耆婆を喚び來る。といて言く、汝、能く王の病を治せるやいなやと。答て言く、能く治せんと。若し能くせば汝、往て之を治すべしと。時に耆婆童子、瓶沙王の所に往て、すすみて王の足を禮し、しりぞきて一面に住す。王に問て言く、いかに患ひ苦しむ所ぞと。王、答て言く、病、如是にょぜ如是にょぜと。復て問ふ、病、何從り起るやと。王、答て言く、如是如是從り起ると。復た問ふ、患ひ來ること久しきや近しきやと。王言く、患ひ來ること爾許そこばの時なりと。此の如く問ひ已て、答て言く、能く治せんと。時に即ち鐵槽てちそうを取り、煖水なんすい盛滿じょうまんして、瓶沙王に語て言く、此の水中に入れと。王、即ち水に入る。王に語らく、水中に坐せと。王、即ち坐す。王に語らく、水中に臥せと。王、即ち臥す。時に耆婆、水を以て王にそそぎて之をじゅす。王即ちねむる。く疾く水をしりぞけ、即ち利刀りとうを取て王の苦せらる處を破る。かさを淨洗し已て、好藥を持て塗る。藥塗りおわりて、病除きかさ愈ゆ。其の處、毛生ず。瘡無き處と別ならず。即ち復た還た槽に水を滿たし、水を以て王に灑で之を呪ず。王、即ちむ。王言く、我が病、治すべしと。答て言く、我れ已に治し竟ぬ。王言く、善く治せりや不や。答て言く、善く治せり。王、即ち手を以て捫摸もんもして看るに、亦た瘡處しょうしょを知らず。王、即ち問て言く、汝、云何いかんが病を治して、乃ち瘡處有ること無からしめん。耆婆、こたえて言く、我れ病を治するに、寧ろ瘡處なだめらしむべけんやと。時に王、即ち諸の侍女を集て是くの如き言を作さく、耆婆醫、大いに我有を利益りやくす。我を念ふ者は、當に大いに財寶を與ふべし。時に諸の侍女、即ち種種の瓔珞ようらく臂脚釧ひかくせん及び覆形ぶぎょうの密寶形のほか、寶錢及び金・銀・摩尼まに・眞珠・毘琉璃びるり貝玉ばいぎょく頗梨はり、積んで大聚を爲す。時に王、耆婆を喚び來て語て言く、汝、我を治して病いやせり。此の物を以て恩に報はんと。耆婆言く、大王、しばらみね。便すなわち供養を爲し已る。我、無畏王子の爲の故に王の病を治せりと。王言く、汝、餘人の病を治することを得ず。だ我が病、佛及び比丘僧びくそう宮内ぐうないの人を治せと。此れは是れ耆婆童子、第二の治病なり。

爾の時、王舍城に長者ちょうじゃ有て、常に頭痛を患ふ。醫の能く治する者有ること無し。時に一の醫有り、長者に語て言く、かえる後七年、當に死すべしと。或は言ふ有り、六年と。或は五年乃至一年、當に死すべき者なりと言ふ。或は醫有て言く、七月後、當に死すべしと。或は六月乃至一月、當に死すべしと言ふ。或は言ふ有り、過て七日後、當に死すべき者なりと。時に長者、自ら耆婆童子の所に往て語て言く、我がに病を治せ。當に汝に百千兩金を雇ふべしと。答て言く、能はずと。復た重て語て言く、汝に二百、三百、四百千兩金をあたふと。答て言く、能はずと。復た言く、當に汝が爲に奴と作り、家業一切も亦た皆、汝に屬すべしと。耆婆言く、我れ財寶の少なるを以ての故に汝を治すこと能はずにあらず。王瓶沙、先に我に勅して、汝、唯だ我が病、佛及び比丘僧、宮中の人を治して、餘人を治すことを得ずと言ふを以て、是の故に能はず。汝、今往て王にもうすべしと。時に彼の長者、即ち往て王に白して言く、我れ今病有り。願くは王、耆婆に我が病を治すことをゆるしたまへ。時に王、即ち耆婆を喚で語て言く、王舍城中に長者有て病む。汝、能く治せんや不やと。答て言く、能く治せんと。汝、若し能くせば往て治すべしと。爾の時、耆婆、即ち長者の家に往て語て言く、何に患い苦しむ所ぞと。答て言く、患ふ所は如是如是なりと。復た問て言く、何に從て起るやと。答て言く、如是如是に從て起れりと。問て言く、得て來ること久しきや近しきやと。答て言く、病來ること爾許時なりと。問ひ已て語て言く、我れ能く汝を治せんと。爾の時、耆婆、即ち鹹食を與へて渇せしめて酒を飮て醉わしめ、其の身を繋で床に在らしめて其の親里しんりを集め、利刀りとうを取て頭をやぶりて頂骨ちょうこつを開き、其の親里に示す。むし頭中ずちゅうに滿つ。此れは是の病なりと。耆婆、諸人に語て言く、先の醫の言の如く七年後に當に死すべしと、彼れ是の意を作さく、七年已後、腦盡きて當に死すべしと。彼の醫の是くの如きを不善見と爲す。或は言く、六・五・四・三・二年・一年、當に死すべき者なりと、彼れ是の意を作さく、腦盡きて當に死すべしと、彼れも亦た不善見なり。或は言く、七月乃至一月、當に死すべき者なりと、彼も亦た不善見なり。言ふ有り、七日、當に死すべき者なりと、彼れ是の意を作して言く、腦盡きて當に死すべしと、彼れ善見を爲す。若し今治せず七日を過ぎなば、腦盡きて當に死すべしと。時に耆婆、頭中の病を淨除し已て、酥・蜜を以て置て頭中を滿たし已り、髑髏どくるを合して之を縫ひ、好藥を以て塗る。即時に病除き肉滿つ。還た復た毛生ず。瘡無き處と異ならず。耆婆、語て言く、汝、先要せんようを憶するや不やと。答て言く、憶す。我れ先に此の要有り。當に汝の爲に奴と作て家業一切悉く當に汝に屬すべしと。耆婆、言く、且く止みね、長者。便ち供養を爲し已ぬ。還た初めの語を用ふ。時に彼の長者、即ち四十萬兩金を與ふ。耆婆、一百千兩を以て王に上る。百千兩は父に與へ、二百千兩自ら入る。此れは是れ耆婆第三の治病なり。

爾の時、拘睒彌くせんみ國に長者の子有り、輪上に嬉戲きげして、ちょう、腹内にけつして食飮消せず、亦た出すことを得ず。彼の國に能く治す者無し。彼れ摩竭まかつ國に大醫有て善く能く病を治すことを聞く。即ち使つかいやりて王に白く、拘睒彌長者子の病、耆婆、能く治せん。願くは王、遣來したまへと。時に瓶沙王、耆婆を喚で問て言く、拘睒彌長者子の病、汝、能く治するや不やと。答て言く、能くすと。若し能くせば、汝、往て之を治すべしと。時に耆婆童子、車に乘じて拘睒彌にいたる。耆婆、始て至る。長者の子、已に死して、伎樂ぎらく送出す。耆婆、聲を聞て即ち問て言く、此れは是れ何等の伎樂鼓聲なりやと。傍人ぼうにん、答て言く、是れは汝、爲に來る所、長者の子、已に死せり。是れは彼の伎樂の音聲なりと。耆婆童子、善く能く一切の音聲を分別す。即ち言ふ、語て迴還えげんせしめよ。此れは死人の語に非ず。已にして即便すなわち迴還す。時に耆婆童子、即ち車を下て利刀を取り、腹をやぶりて腸の結處けっしょひら、其の父母・諸の親に示して語て言く、此れは是れ輪上に嬉戲して腸を結せしむ。是くの如くして食飮消せず。是れ死に非ざるなりと。即ち爲に腸を解き、復た本處に還して、皮を縫ひて肉合し、好藥を以て之に塗る。瘡、即ち愈へて毛還た生ず。瘡無き處と異ならず。時に長者子、即ち耆婆に四十萬兩金を報ず。婦も亦た四十萬兩金を與ふ。長者の父母も亦た爾なり。各四十萬兩金を與ふ。是れ耆婆童子、第四の治病なり。

爾の時、尉禪いぜん國王波羅殊提ぱらしゅだい、十二年中、常に頭痛を患ふ。醫の能く治する者有ること無し。彼れ瓶沙王に好醫有て善く能く病を治することを聞く。即ち使を遣して王に白く、我れ今病有り。耆婆能く治せん。願くは遣し來て我が爲に之を治せと。時に王、即ち耆婆を喚で問て言く、汝、能く波羅殊提の病を治するや不やと。答て言く、能くすと。汝、往て之を治すべしと。王、語て言く。彼の王、さそり中從り來る。汝、好く自ら護せ。自ら命を斷つこと莫れと。答て言く、爾りと。時に耆婆童子、尉禪國に往て、波羅殊提の所に至る。足を禮すること已て一面に在て住ず。即ち王に問て言く、何に患ひ苦しむ所ぞと。答て言く、如是如是病むと。問て言く、病、何從り起ると。答て言く、如是如是從り起ると。問て言く、病來ること久しきや近しきやと。答て言く、病來ること爾許の時なりと。次第して問ひ已て語て言く、我れ能く治せんと。王言く、若しは、若しは雜酥ぞうそを以て藥と爲せば、我れ服すこと能はず。若し我れに雜酥の藥を與へば、我れ當に汝を殺むべしと。是の病、餘藥は治せず、唯だ酥のみ則ち除く。耆婆童子、即ち方を設て便ち王に語て言く、我等醫法、病を治するに朝晡ちょうほ晨夜しんや、隨意に出入せんと。王、耆婆に語く、隨意に出入することを聽すと。復た王に白して言く、若し貴藥を須めんには、當に急乘騎を得べし。願くは王、疾き者を給することを聽したまへと。是の時、王、即ち日に五十由旬を行くを給す。即ち王に醎食かんじきを與へて食はしめ、屏處びょうしょに於て酥を煎じて藥と爲す。水色すいしき水味すいみと作し已り、持て王母に與へて語て言く、王、若し眠り覺め、渇して水をもちふる時、此れを持て與へて之を飮ましむべしと。水を持て王母に與へ已り、即ち五十由旬ゆじゅんに乘て去る。時に王、眠り覺め、渇して水を須ふ。母、即ち此の水藥を持て之を與ふ。藥、消せんと欲する時、酥氣有ることを覺る。王言く、耆婆、我に酥を與へて飮ましむ。是れ我が怨家おんけなり。何ぞ能く我れを治せんや。急に往てもとめ來らしむ。即ち耆婆の住處に往て之を覓むるに得ず。守門人に問て言く、耆婆の在る所ぞと。答て言く、五十由旬の駝に乘て去れりと。王、ますます怖懼ふくす、酥を以て我に飮ましむ。是れ我が怨家なり。何ぞ能く我れを治せんやと。時に王、一の健歩ごんぶ有り、名けてと曰ふ。日に六十由旬を行く。即ち喚び來る。王、語て言く、汝、能く耆婆童子を追ふや不やと。答て言く、能くすと。汝、往て喚び來るべしと。王言く、彼の耆婆、大いに技術を知る。其の食を食すること莫れ。或は汝に非藥を與へんと。答て言く、爾り。王の教を受くと。耆婆童子、去て中道に至り、復た畏懼せず。便ち住して食を作す。時に健歩烏、耆婆に及ぶことを得、耆婆に語て言く、王波羅殊提、汝を喚ぶと。即ち言く、當に去るべしと。耆婆、烏に食を與ふもうけがへて食せず。時に耆婆、自ら一の阿摩勒あまろくを食して半ばを留め、一器の水を飮んで復た半ばを留む。爪の下に非藥を安じて水果の中に沈著す。烏に語て言く、我れ已に半果を食し半水を飮む。餘の半果半水有り。汝、之を食ふべしと。烏、即ち念じて言く、彼れ自ら半果を食し半水を飮み、半を留めて我に與ふ。此の中、必ず當に非藥有ること無かるべしと。即ち半果を食し半水を飮み已る。便ちそうを患ひて復た去ること能はず。復た藥を取て烏に前にけ、語て言く、汝、某時某時に此の藥を服せ。當に差ゆべしと。耆婆童子、即便ち五十由旬の駝に乘り行て復た前に去る。後、王と烏の患ふ所、ともゆ。波羅殊堤王、使を遣して耆婆を喚で語て言く、汝、已に我を治して病を差す。來るべし、汝、彼の國に在て得る所の多少、我れ當に倍を加へて汝に與へんと。耆婆言く、且く止みねと。王、便ち供養を爲し已る。我れ瓶沙びょうしゃ王の爲の故に王の病を治すと。時に波羅殊提、一の貴價衣のあたい半國にあたふを送て、耆婆に語て言く、汝、肯て來らず。今、汝に此の衣を與へ、以て相ひ報ふに用ふと。此れは是れ耆婆、第五の治病なり。

爾の時、世尊、すいわずらふ。阿難あなんに語て言ひたまはく、我れ水を患ふ。除去することを得んと欲すと。時に阿難、世尊の言を聞て王舍城に往き、耆婆の所に至て言て語く、如來、水を患ふ。之れを除かんことを得んと欲したまはふと。爾の時、耆婆、阿難と倶に佛の所に往く。頭面禮足して却て一面に住し、佛に白して言く、如來、水を患ふやと。佛言く、是くの如し、耆婆。我れ之を除かんと欲すと。佛に白して言く、幾下いくげを須ひんと欲したまふやと。答て言く、三十下を須ふと。時に耆婆、阿難と倶に王舍城に往き、三把の優鉢花うはちげを取て、還た其の家にいたる。一把の花を取て、藥を以て之を熏じ、并に復た呪して説く、如來、此れをかぎて十下を得べしと。復た第二把の花を取り、藥を以て之を熏じ、并に復た呪して説く、之を嗅で復た十下を得べしと。復た第三把の花を取て、藥を以て之を熏じ、并に復た呪して説く、之を嗅で九下を得べしと。復た一掌いっしょう煖水なんすいを飮めば、一下とふう、即ち隨順することを得るに足ると。三把の花を以て、阿難の手の中に置く。時に阿難、華を持て王舍城を出で、世尊の所に詣る。一把の花を持て、世尊に授與したまふ。如來、之を嗅ぎ、十下を得べしと。復た第二把を授けたまひ、更に十下を得んと。第三把、復た九下を得んと。爾の時、耆婆、阿難に佛に煖水を與ふるを語ることを忘る。爾の時、世尊、耆婆の心に念ずる所を知り、即ち阿難を喚で煖水を取り來らしむ。爾の時、阿難、世尊の教を聞て、即ち煖水を取て佛に與へたまふ。佛即ち一掌の煖水を飮み、患ひ即ち消除しょうじょして、風亦た隨順す。

爾の時、王瓶沙、佛に患ひ有るを聞て、八萬四千はちまんしせんと倶に前後導從して世尊の所に詣り、世尊を問訊もんじんして頭面禮足し、却て一面に坐ず。時に憂填うてん、世尊の患ひを聞て、亦た七萬人を將て倶なり。波羅殊提ぱらしゅだい王、六萬人と倶なり。梵施ぼんせ、五萬人と倶なり。波斯匿はしのく王、四萬人と倶なり。末利まり夫人ぶにん利師達多富羅那りしだったふらな四大天王しだいてんおう及び諸の營從えいじゅう釋提桓因しゃくだいがんいん忉利とうりの諸天と倶なり。炎天子えんてんし炎天えんてんと倶なり。兜率天子とそつてんし、兜率の諸天と倶なり。化樂天けらくてん、化樂の諸天と倶なり。他化自在天たけじざいてん、他化自在天と倶なり。梵天ぼんてん、梵天と倶なり。摩醯首羅天子まけいしゅらてんし、摩醯首羅の諸天と倶なり。世尊の所に往て、頭面禮足し却て一面に住ず。時に舍利弗しゃりほつ、世尊の病を聞て、五百ごひゃくの比丘と倶に世尊の所に往て頭面禮足し、却て一面に住す。爾の時、摩訶波闍波提まかぱじゃぱてい比丘尼びくに、世尊の病を聞て、五百比丘尼と倶なり。阿難賓坻あなんひんてい、五百の優婆塞うばそくと倶なり。毘舍佉母びしゃきゃも、五百の優婆夷うばいと倶なり。世尊の所に詣て頭面禮足し、世尊を問訊す。時に提婆達多だいばだった、世尊の病を聞て、世尊の所に詣り、頭面禮足して却て一面に住す。爾の時、提婆達多、世尊の前に四部しぶしゅ會することを見て、是くの如く念を作さく、我れ今ま寧ろ藥を服すべし。佛の如く四部の衆をして來て我を問訊せしむべしと。即と耆婆の所に往て語て言く、我れ佛が服する所の藥を服せんと欲す。汝、我に藥を與ふべしと。耆婆言く、世尊服したまふ所の此の藥、那羅延ならえんと名く。此の藥、是れは餘人よにんの服する所に非ず。轉輪王てんりんおうを除く。成就じょうじゅ菩薩ぼさつ如來にょらいは乃ち能く之を服すと。提婆達多、語て言く、若し我れに與へざれば、我れ當に汝を害すべしと。爾の時、耆婆、命を奪れるを畏れるが故に、即便すなわち之を與ふ。提婆達多、此の藥を服するを以ての故に、即ち重病を得、身心倶に苦しむ。獨り一己有て更に餘人無く、亦た親厚しんごう無し。是くの如き念を作さく、我が今日の如き、救ふ者有ること無し。唯だ如來のみ有りと。爾の時、世尊、提婆達の心のおもひを知り、耆闍崛山ぎじゃくつせん從り身から施藥の光明を出して、以て提婆達多を照す。一切の苦痛をして即ち休息くそくせしむことを得せしむ。爾の時、提婆達多、病差え未だ久しからずして、王舍城おうしゃじょう巷陌こうみゃくに往て唱令す、太子悉達多しっだった、轉輪王を捨て出家し道を爲すに、今ま醫藥いやくを行じて自活じかつ。何を以て之を知る。我が病を適治して差るが故に知ると。時に諸の比丘、聞く。少欲しょうよく知足ちそく有て頭陀ずだを行じ、學戒がっかいねがい慚愧ざんきを知る者、提婆達多を嫌責けんしゃくす、如來の慈愍じみん、而も更に反復はんぷくすること無しと。爾の時、比丘、世尊の所に往て頭面禮足し已り、佛に白して言く、未曾有みぞううなり、世尊の慈愍。提婆達多、而も更に反復あること無しと。佛、諸の比丘に告げて言く、たまたま今日の慈愍、提婆達多、而も反復無きのみに非ず。何を以ての故に。乃往過去世の時、王有て一切施いっさいせと名く。閻浮提えんぶだい王と作る。時に閻浮提、國土平博にして、人民熾盛豐樂ぶらくなることたぐひ無し。時に閻浮提、八萬四千の城有て、五十億ごじうおく聚落じゅらく有り、六萬の邊城へんじょう有り。爾の時、病人有て、一切施王の所に詣り、王に白して言く、我れ今、救護くご有ること無し。唯だ王有るのみと。爾の時、王、閻浮提の諸醫を集て、此の病人を示す。王、諸醫に問ふ、此の病人の如きは當に何の藥を須ふべきと。諸醫、病を看已て王に白して言く、此の病人の如きは、常の能く藥を與ふる所に非ず。唯だ成就菩薩有て、能く藥を與ふるのみと。王問ふ、何のを須ふとすやと。醫言く、此の病人、若し慈心の菩薩の生肉しょうにく生血しょうけつを得て、之を食はば、二十九日にして乃ち差ゆることを得んと。一切施王、心に念じて言く、生死しょうじ長遠じょうおんにして輪轉りんてんきわまり無く、諸の苦惱を受く。或は地獄じごく餓鬼がき畜生ちくしょうに墮し、脚をられ、手を截られ、耳を截られ、鼻を截られ、眼をえぐられ、頭をかれ、ついに何の益する所か。即ち國を以て諸臣に付囑ふそくし、内靜處ないじょうしょに入り四無量行しむりょうぎょうを思ふ。爾の時、一切施王、即ち利刀を取て髀裏ひりの肉血をき、人をして送て病者に與へしむ。是くの如くして二十九日を經。後に王、使人に問ふ、病人云何いかんと。王に答て言く、已に差ゆと。王言く、ひきひ來れ、之を看んと。時に即ち病人の爲に洗浴して新衣を與へて著せしめ、ひきひて王の所に詣る。王、問て言く、汝、病云何と。答て言く、已に差ゆと。王言く、汝、意に隨て去れ。時に彼の人、門を出るに、右脚、地をけりて血出づ。餘人、之を見て問て言く、男子、汝が脚、何の故にか血出るやと。即ち言く、彼れは非法の王、弊惡へいあくの王、非法ひほう婬著いんじゃくの王、貪著して邪見を樂ふ王なり。彼の門の中に於て、脚、此のしきいを蹴り、我が脚をして壞し血出らしむこと是くの如しと。彼の諸人、言く、未曾有なり、反復無き人。一切施王、二十九日、身の血肉を以て治して差えしむことを得。而も王の所に於て反復有ること無しと。佛、諸の比丘に告げたまはく。爾の時、一切施王は我が身、是れなり。時の病人は、今の提婆達多、是れなり。我が前世の時、慈心、之を愍む。而も反復無し。今も亦た是くの如く、反復有ること無し。爾の時、世尊、提婆達多の爲の故に、此のを説て言く、

一切もろもろ山海せんかい、我れ以て重しと爲さず。 
其の反復無き者、我れ此れを以て重しと爲す。 
反復有ること無きのむくひ、癩病らいびょう惡疾あくしつの苦、 
或は白癩びゃくらい病を受く。反復無きは是くの如し。 

是の故に諸の比丘、應に報恩ほうおんを念ずべし。應に反復はんぷくを存すべし。當に是くの如く學ぶべしと。爾の時、耆婆童子、世尊の病を瞻視せんしして、吐下湯藥及び野鳥やちょうの肉を煮て差ゆることを得。是れ耆婆童子、第六の治病と爲す。

脚註

  1. 大便道だいべんどう中をわずらひて血

    大便道中とは直腸から肛門。比較的重度の痔核(いぼ痔)もしくは裂肛(切れ痔)を患って流血していたのであろう。

  2. かさ

    一般に皮膚病の総称であるが、ここでは傷痕の意。

  3. 捫摸もんも

    撫でて手探りすること。捫も摸も、なでる・さぐるの意。

  4. 瓔珞ようらく

    首飾り。宝石を貴金属で編みつなげた首や胸を飾る装飾品。

  5. 臂脚釧ひかくせん

    臂釧と脚釧。臂釧は手首や腕飾り。脚釧は腿や足首の飾り。釧は環の意で、一般に腕輪。印度古来の装飾品。

  6. 摩尼まに

    [S/P]maṇi. 印度古来の珍宝とされる珠玉。

  7. 毘琉璃びるり

    [S]vaiḍūrya. ラピスラズリ。単に琉璃とも。

  8. 頗梨はり

    [S]sphaṭika. 水精・水晶。クリスタル。

  9. 利刀りとうを取て頭をやぶりて頂骨ちょうこつを開き

    この記述から、仏在世当時すでに開頭手術が行われていた、少なくとも耆婆によって外科的手術が行われていたらしきことが伺われる。

  10. むし

    腫瘍あるいは血腫のことであろう。

  11. 拘睒彌くせんみ

    [S]Kauśāmbī / [P]Kosambī. 古代印度、ガンジス川中流域南側にあった国[S]Vatsa / [P]Vaṃsaの都。

  12. ちょう、腹内にけつして食飮消せず、亦た出すことを得ず

    腸捻転もしくは腸閉塞であろう。

  13. 腹をやぶりて腸の結處けっしょひら

    耆婆は開頭手術ばかりでなく開腹手術を行っていたのであろう。ならば当時、すでになんらかの薬物に依る全身麻酔の知識、技術が存していたと思われる。

  14. 尉禪いぜん

    [S]Ujjayinī. 古代印度のほぼ中央部を占めた国[S]Avantiの都。

  15. 波羅殊提ぱらしゅだい

    [S]Pradyota. 古代印度の国家[S]Avantiの仏在世当時の王。

  16. 朝晡ちょうほ

    朝晩。晡は午後四時頃。

  17. 晨夜しんや

    朝晩。晨は早朝。

  18. らくだ。『パーリ律』では、この時に耆婆が乗ったのはらくだでなく象(hatthī)であったとする。

  19. 醎食かんじき

    塩気の多い食事。醎は塩からいこと、または塩からいものの意。く

  20. 健歩ごんぶ

    健脚。脚の速く、強い者。

  21. [S/P]Kāka. 意味はカラスであり、それを直訳した名。『パーリ律』にも同様に説かれており、彼は[P]dāsaすなわち奴隷であって、日に六十由旬を走り抜く者であったとするのも同様。

  22. 阿摩勒あまろく

    [S/P]Āmalaka. 油柑。薄黄緑色で直径2-3cm程の円形、縦に均等に六条の線が走る果実。渋味と酸味のあり、古来印度で食用あるいは薬用に用いられる。

  23. すい

    下痢。

  24. 阿難あなん

    [S/A]Ānanda. 釈尊の随行として最も長く側仕えた直弟子の一人。阿難陀。

  25. 優鉢花うはちげ

    [S]Utpala / [P]uppala. 睡蓮の一種。青色の花をつける。優鉢華。

  26. ふう

    屁、放屁。おなら。

  27. 八萬四千はちまんしせん

    「非常に多く」を意味する印度における修辞。実際に同数があるわけではない。

  28. 問訊もんじん

    思いやりを以て体調の良し悪し、生活における不都合の有無など問うこと。

  29. 憂填うてん

    [S/P]Udayana. [S]Vatsa国の王。鄔陀衍那、優陀延とも。

  30. 梵施ぼんせ

    [S/P]Brahmadatta.

  31. 末利まり夫人ぶにん

    [S/P]Mallikā. ジャスミンの意。[S/P]Kosala(憍薩羅)国王、[S]Prasenajitの王妃。

  32. 利師達多富羅那りしだったふらな

    未詳。

  33. 四大天王しだいてんおう

    四天王に同じ。六欲天の一つで最下層を支配する四人の天(神霊)の名。

  34. 釋提桓因しゃくだいがんいん

    [S]Śakrodevā-Indra / [P]Sakka-deva-Indo. 帝釈天に同じ。

  35. 忉利とうり

    [S]Trāyastriṃśa. 六欲天の一つでその第二階層を支配する天(神霊)の名。

  36. 炎天子えんてんし

    [S]Yāma. 六欲天の一つでその第三階層を支配する天(神霊)の名。夜摩天とも。

  37. 兜率天子とそつてんし

    [S]Tuṣita. 六欲天の一つでその第四階層を支配する天(神霊)の名。

  38. 化樂天けらくてん

    [S]Nirmāṇa-rati. 六欲天の一つでその第五階層を支配する天(神霊)の名。

  39. 他化自在天たけじざいてん

    [S]Paranirmita-vaśavartin. 六欲天の一つでその第六階層(最上位)、欲界の頂点を支配する天(神霊)の名。

  40. 梵天ぼんてん

    [S]Brahman. 無色界の神。印度教においては宇宙を想像した神、いわゆる創造主とされる。

  41. 摩醯首羅天子まけいしゅらてんし

    [S]Maheśvara. 大自在天、摩醯首羅とも。印度教におけるŚiva神と同定される。

  42. 舎利弗しゃりほつ

    [S]Śāriputra / [P]Sāriputta. 釈尊の直弟子のうち最もその智慧が優れたと称えれる高弟。

  43. 摩訶波闍波提まかぱじゃぱてい比丘尼びくに

    [S]Mahāprajāpatī / [P]Mahāpajāpatī. 釈尊の叔母(母の妹)でその養母。女性として出家が許された初めての人で、最初の比丘尼。

  44. 阿難賓坻あなんひんてい

    [S]Anāthapiṇḍada / [P]Anāthapiṇḍika. 「孤独な人に供する者」の意。本名はSudatta。[S]Śrāvastī(舎衛城)に居した富豪で、いわゆる祇園精舎を釈尊に寄進したその檀越。

  45. 優婆塞うばそく

    [S/P]upāsaka. 在家仏教信者。

  46. 毘舍佉母びしゃきゃも

    [S]Visākhā. [S/P]Kosala(憍薩羅)国の富豪、[P]Migāra(鹿子)の夫人。釈尊に巨大な精舎を寄進したことにより、その精舎は[P]Migāra-mātā-mātupāsāda(鹿子母講堂)と称された。

  47. 優婆夷うばい

    [S/P]upāsikā. 女性仏教信者 。

  48. 提婆達多だいばだった

    [S/P]Devadatta. 釈尊の従兄弟であり、阿難の兄弟であったとも伝えられる人。釈門にて出家しながら常に僧伽における釈尊の地位に取って代わろうと画策した者とされる。

  49. 四部しぶしゅ

    比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷。すなわち僧俗の弟子すべてを意味し、仏教徒の総称。

  50. 轉輪王てんりんおう

    [S]Cakravartirāja. 古代印度における理想的王。釈尊は出家せず王位に就いていたならば転輪王になったとされる。

  51. 成就じょうじゅ菩薩ぼさつ

    [S]Siddhi-Bodhisattva(?). 成道する直前の菩薩、すなわち悟る以前の釈尊を意味したものであろう。

  52. 如來にょらい

    [S/P]tathāgata. tathā(如・真理)からāgata(来た)と理解されたことによる訳。あるいはtathā(如・真理)へgata(行った)と理解されて如去とも訳された。いずれの理解が正しいかは定めがたいが、支那では主に前者、西蔵では後者の理解が伝統的になされている。仏陀の異称(如来の十号)の一つ。

  53. 耆闍崛山ぎじゃくつせん

    [S]Gṛdhrakūṭa. Gṛdhraは鷲、kūṭaは峰の意で、鷲峰山あるいは霊鷲山と漢訳された。王舎城の東北に位置する山。

  54. 悉達多しっだった

    [S]Siddhãrtha / [P]Siddhattha. 釈尊が出家する以前の名。

  55. 今ま醫藥いやくを行じて自活じかつ

    出家とは一切の経済・生産活動など世間営為から離れることを意味し、当時の常識としてそれに出家者が関わることは非法・非常識であるとして批判対象となった。実際、仏教の律儀として比丘が医術・投薬に直接携わることは禁じられている。提婆達多は釈尊が自らを癒やしたことがそれに違反するものとして批判したとされる。

  56. 頭陀ずだ

    [S/P]dhūta. 振り払う、取り除く、打ち砕くの意。仏教では特に粗食・清貧たることを意味し、その項目として十二あるいは十三を数える。僧伽において苦行的修行を求める者に対応した生活態度。

  57. 反復はんぷく

    ここでは恩を知ること、受けた恩を忘れないことの意であろう。

  58. 未曾有みぞうう

    未だかつてないこと。その程度が常識より甚だ大きく、尋常でないこと。

  59. 輪轉りんてん

    輪廻、生死流転。生まれ変わり死に変わりすること。

  60. 内靜處ないじょうしょ

    精神が極度に集中し、鎮まっている状態。いわゆる禅定。これに四つの階梯、いわゆる四禅の境涯が説かれる。

  61. 四無量行しむりょうぎょう

    慈(安楽であれという想い)・悲(苦しみ無くあれという想い)・喜(自他の好事を喜ぶ想い)・捨(いかなる対象にも執着・依存しないこと)の対象とその程度を限定しない四つの想い。四無量心に同じ。

  62. 髀裏ひり

    ふとももの裏。

  63. [S/P]gāthā. 詩文。一定の韻をもって語られる要約文。偈佗・伽陀とも音写し、句・頌・諷頌と漢訳される。

  64. 野鳥やちょうの肉

    釈尊が受けた最期の供養は、きのこであったか豚肉であったか解釈が別れるところであるが、ここでは明瞭に(薬用としてではあろうが)鳥の肉を取っていたとされることから、むしろ律蔵によって釈尊もまた肉を食していたことが明らかに知られる。

僧服関連文献