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Dharmacakra
智慧之大海 ―去聖の為に絶学を継ぐ

慧立 『大唐大慈恩寺三蔵法師伝』 巻三 (抄)

原文

大唐大慈恩寺三藏法師傳卷 第三

沙門慧立本 釋彦悰箋

起阿踰陀國終伊爛拏國

《中略》

法師在寺聽瑜伽三遍。順正理一遍。顯揚對法各一遍。因明聲明集量等論各二遍。中百二論各三遍。其倶舍婆沙六足阿毘曇等。以曾於迦濕彌羅諸國聽訖。至此尋讀決疑而已。兼學婆羅門書印度梵書。名爲記論。其源無始莫知作者。毎於劫初梵王先説傳授天人。以是梵王所説故曰梵書。其言極廣。有百萬頌。即舊譯云毘伽羅論者是也。然其音不正。 若正應云毘耶羯剌諵音女咸反此翻名爲聲明記論。以其廣記諸法能詮故名聲明記論。 

昔成劫之初梵王先説。具百萬頌。後至住劫之初。帝釋又略爲十萬頌。其後北印度健馱羅國婆羅門覩羅邑波膩尼仙。又略爲八千頌。即今印度現行者是。近又南印度婆羅門爲南印度王復略爲二千五百頌。邊鄙諸國多盛流行。印度博學之人所不遵習。此並西域音字之本。其支分相助者。復有記論。略經有一千頌。又有字體三百頌。又有字縁兩種。一名間擇迦三千頌。二名温那地二千五百頌。此別辯字縁字體。

又有八界論八百頌。此中略合字之縁體。此諸記論辯能詮所詮有其兩例。一名底丁履反彦多聲有十八囀。二名蘇漫多聲有二十四囀。其底彦多聲於文章壯麗處用。於諸汎文亦少用。其二十四囀者於一切諸文同用。其底彦多聲十八囀者有兩。一般羅颯迷。二阿答末泥。各有九囀。故合有十八。初九囀者。如汎論一事。即一事有三。説他有三。自説有三。一一三中説一説二説多故有三也。兩句皆然。但其聲別故分二九耳。

依般羅颯迷聲。説有無等諸法。且如説有。有即三名。一名婆𬾢之靴反底丁履反下同二名婆𬾢吒多訛反三名婆飯底。説他三者。一名婆𬾢斯。二名婆𬾢矺。三名婆𬾢他。自説三者。一婆𬾢彌。二婆𬾢靴去聲三婆𬾢摩此第三依四吠陀論中説多言婆𬾢末斯依阿答末泥九囀者。於前九囀下各置毘耶底言餘同上。安此者令文巧妙無別義。亦表極美義也。

蘇漫多聲二十四囀者。謂總有八囀。於八囀中一一各三。謂説一説二説多故。開爲二十四。於二十四中一一皆三。謂男聲女聲非男非女聲。言八囀者。一詮諸法體。二詮所作業。三詮作具及能作者。四詮所爲事。五詮所因事。六詮所屬事。七詮所依事。八詮呼召事。且以男聲寄丈夫上作八囀者。丈夫印度語。名布路沙。體三囀者。一布路殺二布路筲。三布路沙。去聲所作業三者。一布路芟。二布路筲。三布路霜。作具作者三者。一布路鎩拏。二布路𧩰音鞞僣反三布路鎩鞞。或言布鎩呬。所爲事三者。一布路厦沙詐反耶 二布路沙𧩰鞞僣反三布路鎩韵鞞約反所因三者。一布路沙哆他我反二布路鎩𧩰同上三布路鎩韵鞞約反所屬三者。一布路鎩𮘬子耶反二布路鎩𧩰三布路鎩諵安咸反所依三者。一布路䐤所齊反二布路殺諭。三布路鎩縐所芻反呼召三者。一系布路殺。二系布路稍。三系布路沙。略擧一二如此。餘例可知。難爲具述。法師皆洞達其詞。與彼人言清典逾妙。如是鑚研諸部及學梵書。凡經五歳。

底本:『大正新脩大蔵経』

訓読

大唐(だいとう)大慈恩寺(だいじおんじ)三藏(さんぞう)法師(ほうし)傳(でん) 卷第三

沙門慧立(えりゅう)本 釋彦悰(げんそう)箋

起阿踰陀(あゆだ)國終伊爛拏(いらんな)國

《中略》

法師、寺に在て瑜伽(ゆが)を聽くこと三遍、順正理(じゅんしょうり)一遍、顯揚(けんよう)・對法(たいほう)各一遍、因明(いんみょう)・聲明(しょうみょう)・集量(しゅうりょう)等の論各二遍、中(ちゅう)・百(ひゃく)二論各三遍。其の倶舍(くしゃ)・婆沙(ばしゃ)・六足(ろくそく)・阿毘曇(あびどん)等、曾て迦濕彌羅(かしみら)諸國に於て聽き訖(おわ)るを以て、此に至て尋讀し決疑するのみ。兼て婆羅門(ばらもん)の書を學ぶ。印度の梵書(ぼんしょ)、名けて記論と爲す。其の源、始め無くして作る者を知るは莫(な)し。毎に劫初(こうしょ)に於いて梵王(ぼんおう)、先づ説て天人に傳授す。是の梵王の所説を以ての故に梵書と曰ふ。其の言(ことば)、極めて廣く、百萬頌(ひゃくまんじゅ)有り。即ち舊譯(くやく)に毘伽羅論(びからろん)と云ふは是なり。然も其の音、不正(ふしょう)なり。 若(も)し正しくは應(まさ)に毘耶羯剌諵(びやかしなん)音女咸反と云ふべし。此に翻(ほん)じて名けて聲明記論(しょうみょうきろん)と爲す。其の廣く諸法を能く詮(せん)じて記するを以ての故に聲明記論と名く。 

昔、成劫(じょうこう)の初め、梵王先づ説て百萬頌を具(そな)ふ。後、住劫(じゅうこう)の初めに至て、帝釋(たいしゃく)、又略して十萬頌と爲す。其の後、北印度健馱羅(ごんだら)國の婆羅門、覩羅(とら)邑(むら)の波膩尼(ぱにに)仙、又略して八千頌と爲す。即ち今、印度に現行(げんぎょう)するは是なり。近くは又、南印度の婆羅門、南印度の王の爲に復た略して二千五百頌と爲し、邊鄙(へんぴ)の諸國、多く盛んに流行(るぎょう)す。印度博學の人の遵習(じゅんしゅう)せざる所なり。此れ並に西域音字の本(もと)なり。其の支分を相ひ助けるものに、復た記論略經(きろんりゃくきょう)有て、一千頌有り。又、字體(じたい)三百頌有て、又、字縁(じえん)に兩種有り。一には名づけて聞擇迦(もんたか)三千頌、二には名づけて温那地(うなぢ)二千五百頌なり。此れ別して字縁・字體を辯ず。

又、八界論(はちかいろん)八百頌有り。此の中、略して字の縁(えん)・體(たい)を合ず。此の諸記論、能詮(のうせん)・所詮(しょせん)を辯じて其の兩例有り。一には名けて底(てい)丁履反彦多(がんた)聲(しょう)、十八囀(てん)有り。二には名づけて蘇漫多(そまんた)聲(しょう)、二十四囀有り。其の底彦多(ていがんた)聲、文章(もんぞう)の壯麗(しょうらい)の處に於て用ひ、諸(もろもろ)の汎文(ほんもん)に於て亦用ひること少しき。其の二十四囀は一切諸文に於て同じく用ふ。其の底彦多聲の十八囀は兩(ふた)つ有て、一に般羅颯迷(ぱらそうめい)、二に阿答末泥(あとうまね)なり。各九囀有り。故に合して十八有り。初めの九囀とは、汎そ一事を論ずる如し。即ち一事(いちじ)に三有て、他(た)を説くに三有り、自(みずか)ら説くに三有り。一一の三の中、一(いち)を説き、二(に)を説き、多(た)を説くが故に三有り。兩句皆然なり。但だ其の聲の別の故に二九に分るのみ。

般羅颯迷聲(ぱらそうめいしょう)に依て、有・無等の諸法を説くに、且(しばら)く有(う)を説くが如し。有の即ち三名、一は名けて婆𬾢(bhava)之靴反底(ti)丁履反下同、二は名けて婆𬾢矺(bhavatas)多訛反、三は名けて婆飯底(bhavanti)なり。他を説く三とは、一に名けて婆𬾢斯(bhavasi)、二に名けて婆𬾢矺(bhavatas)、三に名けて婆𬾢他(bhavatha)なり。自ら説く三とは、一に婆𬾢彌(bhavāmi)、二に婆𬾢靴(bhavāvas)去聲、三に婆𬾢摩(bhavāma)此の第三は四吠陀論の中の説に依る。多くは婆𬾢末斯と言ふなり。阿答末泥(あとうまね)の九囀に依らば、前の九囀の下に於て、各の毘耶底(びやてい)言を置き、餘は上に同なり。此を安ずるは、文をして巧妙ならしめて別義無く、亦た極美(ごくみ)を表する義なり。

蘇漫多聲の二十四囀は、謂く總じて八囀有り。八囀の中に於て一一各三あり。謂く、一を説き、二を説き、多を説くが故に、開して二十四と爲す。二十四の中に於て一一皆三あり。謂く、男聲(なんしょう)・女聲(にょしょう)・非男非女聲(ひなんひにょしょう)なり。八囀と言ふは、一に諸法の體(たい)を詮じ、二に所作業(しょさごう)を詮じ、三に作具(さぐ)及び能作者(のうさしゃ)を詮じ、四に所爲事(しょいじ)を詮じ、五に所因事(しょいんじ)を詮じ、六に所屬事(しょぞくじ)を詮じ、七に所依事(しょえじ)を詮じ、八に呼召事(こしょうじ)を詮ずるなり。且(しばら)く男聲(なんしょう)を以て丈夫(じょうぶ)の上に寄して八囀を作さば、丈夫は印度語に布路沙(ぷるしゃ)と名く。體(たい)の三囀は、一に布路殺(puruṣas)、二に布路筲(puruṣau)、三に布路沙(puruṣās)去聲なり。所作業(しょさごう)の三は、一に布路芟(puruṣam)、二に布路筲(puruṣāu)、三に布路霜(puruṣān)なり。作具作者(さぐさしゃ)の三は、一に布路鎩拏(puruṣena)、二に布路𧩰(puruṣābyām)音鞞僣反、三に布路鎩鞞(puruṣāis)、或は布鎩呬(puruṣebhis)と言ふ。所爲事(しょいじ)の三は、一に布路厦(puruṣāya)沙詐反耶、二に布路沙𧩰(puruṣābhyām)鞞僣反、三に布路鎩韵(puruṣsbhyas)鞞約反なり。所因(しょいん)の三は、一に布路沙哆(puruṣāt)他我反、二に布路鎩𧩰(puruṣābhyām)同上、三に布路鎩韵(puruṣsbhyas)鞞約反なり。所屬(しょぞく)の三は、一に布路鎩𮘬(puruṣasya)子耶反、二に布路鎩𧩰(puruṣāyos)、三に布路鎩諵(puruṣānām)安咸反なり。所依(しょえ)の三は、一に布路䐤(puruṣe)所齊反、二に布路殺諭(puruṣyos)、三に布路鎩縐(puruṣeṣu)所芻反なり。呼召(こしょう)の三は、一に系(he)布路殺(puruṣa)、二に系(he)布路稍(puruṣāu)、三に系(he)布路沙(puruṣās)なり。略して一二を擧ぐれば此の如く、餘の例も知るべし。具(つぶ)さに述ぶること爲し難し。法師は皆、其の詞(ことば)に洞達(どうたつ)し、彼の人と清典(しょうてん)を言ふに逾妙(ゆみょう)たり。是の如く諸部を鑚研(さんけん)、及び梵書を學ぶこと、凡そ五歳を經(へ)れり。

脚註

  1. 大慈恩寺(だいじおんじ)三藏(さんぞう)法師(ほうし)

    玄奘(602-664)。支那唐代の僧。河南洛州緱氏県出身。13歳で出家し、成都にて受具(武徳五年〈622〉)。印度に『瑜伽師地論』なる書の存在することを聞いて渡天を決意し、いわゆるシルクロードを経て印度に入った。特にMagadha(摩伽陀)のNālanda(那爛陀寺)に長年滞在し、Śīlabhadra(戒賢)に師事して念願の阿毘達磨および唯識のを学び、当地で学頭を務めるなど高名を馳せた。故国を発ってから十七年、帰国。帰国後は印度からもたらした膨大な経論の翻訳事業に取り掛かり、三蔵として歴史上最多の仏典翻訳者となる。また、旅した中央アジア各国から印度各地の文化・風土など詳細に記しまとめた紀行文を著したがそれが本書。玄奘が印度に学んだ唯識を受けた弟子の基により法相宗が生じ、阿毘達磨を受学した普光により倶舎宗が生じた。
    日本からの留学僧、道昭は入唐時に玄奘に師事して修学したといわれる(『続日本記』)。▲

  2. 慧立(えりゅう)

    支那唐代の僧。貞観三年〈629〉、豳州昭仁寺にて出家。玄奘の弟子でその訳経事業に参加。後に玄奘の伝記『慈恩三蔵行伝』を著したが五巻で未完のまま早逝した。▲

  3. 彦悰(げんそう)

    支那唐代の僧。貞観二十三年〈649〉に玄奘の門下に参じた。慧立が遺した未完の玄奘伝を完成させ、玄奘の死から二十四年後の垂拱四年〈688〉脱稿。『大唐大慈恩寺三蔵法師伝』十巻として世に呈した。随代の彦悰とは別人。▲

  4. 寺(てら)

    那爛陀寺(Nālanda)。Rājagṛha(王舎城)から北西に位置した大寺院。現在はその遺跡が世界遺産として保存されている。▲

  5. 瑜伽(ゆが)

    Yogacārabhūmi-śāstra. Maitreya(弥勒)説、Asaṅga(無着)記とされる唯識学派の主要典籍。玄奘は本書を帰朝後に漢訳し、『瑜伽師地論』百巻とした。▲

  6. 順正理(じゅんしょうり)

    Nyāyānusāriṇī. 説一切有部(有部)のSaṃghabhadra(衆賢)著。有部の学説を批判的視点から概説したVasubandhu(世親)のAbhidharmakośa-bhāṣya(『阿毘達磨倶舎論』)に反発して有部の正統説を述べた論書。玄奘は帰朝後、これを翻訳して『阿毘達磨順正理論』とした。▲

  7. 顯揚(けんよう)

    梵語原典は現存せず、ただ漢訳および西蔵訳のみ存するため、正確な題目は不明。Ārya-deśanā-vikhyapânaあるいはPrakaranâryavâca-śāstra、Ārya-śāsana-prakaraṇaなど様々に推測されている。玄奘は帰朝後、これを『顕揚聖教論』としている。▲

  8. 對法(たいほう)

    [S]Abhidharmaの漢訳。具体的書名は不明。あるいは『阿毘曇八犍度論』か?▲

  9. 因明(いんみょう)

    Hetu-vidyā(論理学)。ここでは二つの書の可能性が考えられ、一つはNyāyamukha. Dignāga(陳那)著。仏教論理学における新たな潮流を打ち立てた新因明の綱要書。これも玄奘は漢訳し、『因明正理門論』としている。もう一つはNyāyapraveśa. 陳那の弟子、Śaṅkarasvāmin(商羯羅主)による前者の入門書。玄奘は帰朝後、これも訳して『因明入正理論』とした。▲

  10. 聲明(しょうみょう)

    [S]śabda-vidyā. 梵語の音韻・文法学を意味するが、ここで挙げられた書名の具体は不明。▲

  11. 集量(しゅうりょう)

    Pramāṇasamuccaya. Dignāga(陳那)の主著。新因明を確立した書。原典は散逸し、玄奘の漢訳した『集量論』のみ現存する。▲

  12. 中(ちゅう)

    Mūlamadhyamaka-kārikā、あるいはMādhyamika-śāstra。Nāgārjuna(龍樹)著。中観派の根本典籍の一つ。中観派漢訳では青目釈・鳩摩羅什訳『中論』がよく知られる。▲

  13. 百(ひゃく)

    Śata-śāstra. Nāgārjunaの弟子、Āryadeva(聖提婆)著。『中論』に基づいて空観を展開した書。漢訳は鳩摩羅什訳『百論』。▲

  14. 倶舍(くしゃ)

    Abhidharmakośa-bhāṣya. Vasubandhu(世親)著。説一切有部の見解を批判的に概説した綱要書。玄奘に先行する漢訳に真諦『倶舎釈論』があるが、玄奘は改めて『阿毘達磨倶舎論』として訳出している。▲

  15. 婆沙(ばしゃ)

    Abhidharma-mahāvibhāṣā-śāstra? 説一切有部の諸学僧により編纂されたと思われる、Kātyāyanīputra (迦多衍尼子)のAbhidharma-jñāna-prasthâna-śāstra?(『発智論』)の註釈書。▲

  16. 六足(ろくそく)

    六足論。説一切有部の論蔵における重要な七書のうちの六書の総称。①aṃgīti-paryāya(『集異門足論』)・②Dharma-skandha(『法蘊足論』)・③Prajñapti-śāstra(『施設論』)。④Dhātukāya(『界身足論』)・⑤ Vijñāna-kāya(『識身足論』)・⑥Prakaraṇa-pāda(『品類足論』)。 ▲

  17. 阿毘曇(あびどん)

    おそらくはAbhidharma-jñāna-prasthâna-śāstra?(『発智論』)であろう。仏滅後三百年を経て出た論師Kātyāyanīputra(迦多衍尼子)による阿毘達磨で、説一切有部の根本典籍。六足論と共に「六足発智」と並び称される。▲

  18. 迦濕彌羅(かしみら)

    Kaśmīra. 印度北西部。現在のカシュミール。▲

  19. 婆羅門(ばらもん)

    brāhmaṇa. 印度における種姓で最高位とされる、学問・祭祀を司る者の階級。バラモン。▲

  20. 劫初(こうしょ)

    劫は[S]kalpaの音写「劫波」の略で、宇宙生成から滅亡までの宇宙的長大な時間の単位。劫波には①成劫・②住劫・③壊劫・④空劫の四過程があり、劫初は宇宙が形成され手間もない頃、すなわち成劫の初め。▲

  21. 梵王(ぼんおう)

    [S]Brahman. 印度において世界の創造主として信仰される天。仏教では色界初禅天の王とされる。ここでは印度における神話の創造神として前者の意。▲

  22. 舊譯(くやく)に毘伽羅論(びからろん)と云ふ

    曇無讖や真諦など先行する訳経僧の音訳では『毘伽羅論』としているが、これを玄奘は訛謬であると批判した。▲

  23. 毘耶羯剌諵(びやかしなん)

    Vyākaraṇa. 文法。梵天により作られ人天に伝えられたという梵語の文法書。▲

  24. 成劫(じょうこう)

    宇宙の形成期。▲

  25. 住劫(じゅうこう)

    宇宙の安定期。▲

  26. 帝釋(たいしゃく)

    [S]Śakradevānam-Indra. 世界を想像した梵王(梵天)に並び、印度神話において最も重要な神。軍神。帝釈天。▲

  27. 健馱羅(ごんだら)國

    Gandhāra. 現在のパキスタン・ペシャワール周辺部。▲

  28. 覩羅(とら)邑(むら)

    Śalātura. 沙羅覩羅邑。『西域記』の記錄などから現在のバクシャリ村近郊に比定されている。▲

  29. 波膩尼(ぱにに)仙

    Pāṇini. 前五から四世紀の印度の人。梵語(ヴェーダ語)をまさしく「saṃskṛta(完成されたもの)」、すなわちサンスクリットとした大文法学者。▲

  30. 字體(じたい)

    語根(語幹)。▲

  31. 字縁(じえん)

    接辞。▲

  32. 聞擇迦(もんたか)

    Muṇḍa (Muṇḍaka). 語根の合成法について述べられた書、あるいは章。義浄が『寄帰伝』にて「三棄攞章(三荒章)」として挙げる中の一つ。ただし、義浄は「文荼」と音写している。底本では「間擇迦」とされているが、しかし異本によって「門擇迦」・「聞釋迦」などと隔たりがある。しかし、義浄の音写により、聞擇迦あるいは門擇迦が玄奘の音写であったろうと考えられる。ここでは一応、底本「間擇迦」を訂して「聞擇迦」とした。▲

  33. 温那地(うなぢ)

    Uṇādi. Muṇḍaに同じく語根の合成法について述べられた書、あるいは章。義浄によれば、前者が詳細な内容を記し、後者(すなわちUṇādi-sūtra)は簡略なものであるという。『寄帰伝』では「鄔拏地」。▲

  34. 八界論(はちかいろん)

    『帰寄伝』に幼童のための梵語の入門書「三棄攞章」の一つとして挙げられる「頞瑟吒馱覩(aṣṭadhātu)」に同じものであろう。▲

  35. 底(てい)丁履反彦多(がんた)聲(しょう)

    [S]tiṅanta. 梵語における動詞の活用。▲

  36. 蘇漫多(そまんた)聲(しょう)

    [S]subanta. 梵語における名詞の格変化。▲

  37. 般羅颯迷(ぱらそうめい)

    [S]parasmai(-pada). 能動態。他に影響を及ぼす動作。active. ▲

  38. 阿答末泥(あとうまね)

    [S]ātmane(-pada). 反射態。自身のための動作。middle. ▲

  39. 一事(いちじ)

    三人称。▲

  40. 他(た)を説く

    二人称。▲

  41. 自(みずか)ら説く

    一人称。▲

  42. 一(いち)を説き

    単数。▲

  43. 二(に)を説き

    双数。▲

  44. 多(た)を説く

    複数。▲

  45. 有(う)

    bhū. 有ること、成ること、生じることを意味する語根(√)。
    以下、名詞および動詞の活用に限り、それらを日本に伝わる呉音・漢音で表するのは不合理であるため、ローマ字にてルビを付す。▲

  46. 婆𬾢(bhava)之靴反底(ti)丁履反下同

    bhavati. √bhūの三人称単数。
    割注の「之靴反」等はその直前の音写の発音を示すための反切。以下同。▲

  47. 婆𬾢矺(bhavatas)多訛反

    bhavatas. √bhūの三人称双数。▲

  48. 婆飯底(bhavanti)

    bhavanti. √bhūの三人称複数。▲

  49. 婆𬾢斯(bhavasi)

    bhavasi. √bhūの二人称単数。▲

  50. 婆𬾢矺(bhavatas)

    bhavatas. √bhūの二人称双数。▲

  51. 婆𬾢他(bhavatha)

    bhavatha. √bhūの二人称複数。▲

  52. 婆𬾢彌(bhavāmi)

    bhavāmi. √bhūの一人称単数。▲

  53. 婆𬾢靴(bhavāvas)去聲

    bhavāvas. √bhūの一人称双数。▲

  54. 婆𬾢摩(bhavāmas)

    bhavāmas. √bhūの一人称複数。▲

  55. 毘耶底(びやてい)

    [S]vyati. 動詞のātmanepada(反射態)における-e、-ete、-nteなどの語尾。▲

  56. 男聲(なんしょう)

    [S]puṃ-liṅga. 男性名詞(Masculine)。▲

  57. 女聲(にょしょう)

    [S]strī-liṅga. 女性名詞(Feminine)。▲

  58. 非男非女聲(ひなんひにょしょう)

    [S]napuṃsaka-liṅga. 中性名詞(Neuter)。▲

  59. 體(たい)

    主格(Nominative)。▲

  60. 所作業(しょさごう)

    業格(Accusative)。▲

  61. 作具(さぐ)及び能作者(のうさしゃ)

    具格(Instrumental)。▲

  62. 所爲事(しょいじ)

    為格(Dative)。▲

  63. 所因事(しょいんじ)

    従格(Ablative)。▲

  64. 所屬事(しょぞくじ)

    属格(Genetive)。▲

  65. 所依事(しょえじ)

    於格(Locative)。▲

  66. 呼召事(こしょうじ)

    呼格(Vocative)。▲

  67. 布路沙(ぷるしゃ)

    [S]puruṣa. 《男》人、男、人類。▲

  68. 布路殺(puruṣas)

    puruṣas. puruṣaの主格単数。▲

  69. 布路筲(puruṣau)

    puruṣau. puruṣaの主格双数。▲

  70. 布路沙(puruṣās)

    puruṣās. puruṣaの主格複数。▲

  71. 布路芟(puruṣam)

    puruṣam. puruṣaの業格単数。▲

  72. 布路筲(puruṣāu)

    puruṣau. puruṣaの業格双数。▲

  73. 布路霜(puruṣān)

    puruṣān. puruṣaの業格複数。▲

  74. 布路鎩拏(puruṣena)

    puruṣena. puruṣaの具格単数。▲

  75. 布路𧩰(puruṣābyām)

    puruṣābyām.puruṣaの具格双数。 ▲

  76. 布路鎩鞞(puruṣāis)

    puruṣais. puruṣaの具格複数。▲

  77. 布鎩呬(puruṣebhis)

    puruṣebhis. puruṣaの具格複数の異形。▲

  78. 布路厦(puruṣāya)沙詐反耶

    puruṣāya. puruṣaの為格単数。▲

  79. 布路沙𧩰(puruṣābhyām)鞞僣反

    puruṣābhyām. puruṣaの為格双数。▲

  80. 布路鎩韵(puruṣebhyas)鞞約反

    puruṣebhyas. puruṣaの為格複数。▲

  81. 布路沙哆(puruṣāt)

    puruṣāt. puruṣaの従格単数。▲

  82. 布路鎩𧩰(puruṣābhyām)同上

    puruṣābhyām. puruṣaの従格双数。▲

  83. 布路鎩韵(puruṣebhyas)鞞約反

    puruṣebhyas. puruṣaの従格複数。▲

  84. 布路鎩𮘬(puruṣasya)

    puruṣasya. puruṣaの属格単数。▲

  85. 布路鎩𧩰(puruṣāyos)

    puruṣāyos. puruṣaの属格双数。▲

  86. 布路鎩諵(puruṣānām)

    puruṣānām. puruṣaの属格複数。▲

  87. 布路䐤(puruṣe)所齊反

    puruṣe. puruṣaの於格単数。▲

  88. 布路殺諭(puruṣyos)

    puruṣyos. puruṣaの於格双数。▲

  89. 布路鎩縐(puruṣeṣu)所芻反

    puruṣeṣu. puruṣaの於格複数。heは呼びかけ。▲

  90. 系(he)布路殺(puruṣa)

    he puruṣa. puruṣaの呼格単数。▲

  91. 系(he)布路稍(puruṣāu)

    he puruṣāu. puruṣaの呼格双数。▲

  92. 系(he)布路沙(puruṣās)

    he puruṣās. puruṣaの呼格複数。▲

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