常に諸の欲境を求めて、善事を行ぜず。
云何が形命を保ちて、死の來り侵すを見ず。
命根氣盡きなんと欲し、支節悉く分離す。
衆苦死と倶なり、此の時徒らに歎き恨む。
兩目倶に上に飜り、死刀業に隨ひて下る。
意想並びに慖惶し、能く相救濟する無し。
長喘胸に連りて急く、噎氣喉中に乾く。
死王伺命を催し、親屬徒らに相守る。
諸識皆昏昧にして、行ひて險城の中に入る。
親知咸な棄捨し、彼の繩に牽くに任せ去る。
將に琰魔王に至り、業に隨て報を受けんとす。
勝因は善道に生じ、惡業は泥犁に墮す。
明眼慧に過ぐる無く、黒闇癡に過ぎず。
病は怨家を越えず、大怖死に過ぐる無し。
生有れば皆な必ず死し、罪を造れば苦身に切る。
當に勤めて三業を策ち、恒に福智を修せよ。
眷屬皆捨て去り、財貨他の將るに任す。
但だ自らの善根を持ちて、險道の糧食に充つ。
譬へば路傍の樹の如く、暫し息へども久しく停らず。
車馬及び妻兒、久しからざること皆な是の如し。
譬へば群宿する鳥の如く、夜聚りて旦に隨て飛ぶ。
死して親知に去別し、乖離すること亦是の如し。
唯だ佛菩提有り。是れ眞の歸仗の處なり。
經に依て我れ略説す。智者善く應に思ふべし。
天阿蘇羅藥叉等、
來りて法を聽かん者應に至心に、
佛法を擁護して長く存ぜしめ、
各各世尊の教を勤行すべし。
諸の聽有る徒此に來至し、
或は地上に在り或は空に居るは、
常に人世に於て慈心を起し、
晝夜自身に法に依りて住せよ。
願はくは諸の世界常に安隱に、
無邊の福智群生を益せん。
所有罪業並びに消除し、
衆苦を遠離して圓寂に歸せん。
恒に戒香を用ひて瑩體に塗り、
常に定服を持して以て身を資く。
菩提の妙華遍ねく莊嚴し、
所住の處に隨て常に安樂ならん。
佛説無常經
常に様々な欲望の対象を求めて、善事を行わず、
どうして身命を保つのみで、死が訪れ侵すことを見ないのか。
命根〈寿命〉いよいよ尽きれば、四肢と身体とは散り散りとなる。
多くの苦が死と共に生じ、その時ようやく無益に歎き恨む。
両目が共に上を向き、死の刃が業に従って振るわれる。
意識も知覚も惑い恐れるが、誰も救う者などありはしない。
粗い呼吸で胸は忙しなく、息が詰まって喉はカラカラに乾く。
死王は命の終わりを待ち、親族らはただ見守るだけである。
五感は朦朧となって、進路を(死の)険しき城の中に向ける。
(死後は)親族・知人に捨てられ、死王の繩に牽かれ去るのみ。
まさに焔魔王の元に至れば、業に従ってその報を受けるのだ。
勝因〈十善〉は善道に生じ、悪業は泥犁〈地獄〉に堕させる。
明眼で智慧に勝るは無く、黒闇で無癡に過ぎるは無い。
病は忌むべき最たるもので、恐ろしさで死を超えるものは無い。
命あれば皆必ず死に帰し、自ら罪を造れば苦となり身を苛む。
まさに勤めて三業を制し、常に福徳と智慧とを修めよ。
(死すれば)親族らに捨て去られ、遺産は他者に持ち去られる。
ただ自らの善根こそ持って、(死という)険道の糧食に充てよ。
譬えば路傍の樹下では、暫し休息しても久しく留まりはしない。
車馬および妻子も、永遠でないことはそのようなものである。
譬えば群れで宿る鳥のように、夜集まっても朝には飛び立つ。
死せば親族・知人と別れ、離れることもまた同様である。
ただ仏陀の菩提〈悟り〉こそ、真に頼みとすべきものである。
経に依ってこれを私は略説する。智者よ、善く思案せよ。
天人・阿修羅・薬叉等、
来たって法〈教え〉を聞く者よ、まさに至心に、
仏法を擁護して長く後世に伝え、
各各世尊の教えを勤め行うべし。
諸々の耳ある者らでここにあり、
あるいは地上にあり、あるいは空にある者らよ、
常に人の世において慈しみの心を起こし、
昼夜に自ら法に依って生きよ。
願わくは諸々の世界が常に安穏で、
無辺の福徳・智慧が生命ある者を利益し、
その罪業が全て消え去り、
種々の苦から遠離して円寂〈涅槃〉に至らんことを。
恒に持戒という香りでもって体を飾り、
常に禅定という服をまとって身を助け、
菩提という妙華で遍ねく荘厳すれば、
自ら今ある処々において常に安楽となるであろう。
『仏説無常経』竟