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Dharmacakra
智慧之大海 ―去聖の為に絶学を継ぐ

『諸宗之意得』 雙龍尊者口説

原文

 密敎

誠に諸佛内證智の法門。末世に受持すること宿福深厚の事なり。今時諸流わかれて甚わづらはし。事相次第經軌より出たるなり。少く相承もあり。その相承の覺やうと經軌の取リ樣の巧拙とによりて諸流わかれたり。次第折紙等も傅べし。經軌も受持すべし。折紙等を重にして。經軌を智通壇と云て淺略のやうに覺ユルことは。後人の私か

事相の觀念。影像分齋なりとも勤て修習すべし。初心者は讀でおくも結緣の善あるべし。近世我宗は。觀念は觀念をよみてばかりおくが深秘なりと云ことは。私なるべし

予智解暗昧なり。又未ダ明師に逢はず。智者宜く省察すべし。予が言は不ルニなり。但聖敎量のみなり

上聰明睿智のあり。下に賢能忠良の臣あり。山林に禪寂高逸の僧あり。僧坊に清潔有識の僧あり。佛在世にちかきなり。此日本此時節あるべし。諸民ことごとく十善戒を行じ。諸出家の人持戒得定にして。飢饉災なく疾疫災なく。刀兵災なく。乃至彌勒の出世まで正法久住すべし

其ノ時風雨順時諸民快樂。男女共に相好圓滿し。諸惡疾なく少病少惱長壽なり。此國一人として貧窮乞■の人なく。一人として盗賊なし

佛神は靈瑞あらはるべし。經巻は天竺より梵本來り。梵本の藏經を受時するなり 僧家は皆持戒清淨禪定明徹なるべし。此時僧中に大導師あるべし。如來正法律の主なり。末世像法末法の中の諸宗に異り。直に佛世の聖敎量を以て七衆を濟度し玉ふなり 此時大寒大熱なく五穀豊穣。綿帛金銀乏しからず。四季に花あり。童子奴婢に至るまで皆禮儀を知る。亂語雜儀なし

現代語訳

 密敎

誠に諸仏の内証智の法門であって、末世に受持することが出来るのは宿福深厚の事である。今時は諸流に分かれて甚だ煩わしい。事相の次第等は皆、経軌〈経典・儀軌〉に基づき編纂されたものである。(その中には)少しく相承〈口伝〉もある。その相承の覚えようと経軌の取リ様の巧拙とによって諸流に分かれたのである。次第〈経軌所説の瑜伽法を修法のため簡便に整理したもの〉・折紙〈修法の次第や要文等を抜書して折った紙〉等も伝えたら良いが、経軌も受持せよ。折紙等を重くして経軌を「智通壇」と云い、浅略のように捉えることは後人の私であろう。

事相の観念は影像〈指定された姿形の仏菩薩あるいは浄土の様相を自ら瑜伽の中で確固として観想すること〉の分際であっても勤めて修習せよ。初心者は(次第に書かれている観念の仕方の文言を)読んでおくだけでも結縁の善があるだろう。近世、「我宗は観念は観念を読んでばかりおくことがむしろ深秘である」と云うことは私見に過ぎない。

私は智解暗昧である。また、いまだ明師に逢えてもいない。智者はよろしく省察せよ。私の言葉は取るに足らないものである。ただ聖教量にのみ依れ。

上には聡明睿智の君《天皇》があり、下には賢能忠良の臣《調停の公家など官人や幕府の武士》がある。山林には禅寂高逸の僧があり、僧坊には清潔有識の僧がある。仏在世に近いことである。この日本にそんな時節も来ることであろう。諸民がことごとく十善戒を行い、諸出家の人は持戒得定にして、飢饉災なく、疾疫災なく、刀兵災なく、乃至弥勒の出世まで正法久住するであろう。

その時には風雨順時にして諸民快楽、男女共に相好円満して、諸々の悪疾なく、少病少悩で長寿である。この国の一人として貧窮乞■の人はなく、一人として盗賊もない。

仏神の霊瑞も顕れるであろう。経巻は天竺から梵本がもたらされ、(漢訳でなく)梵本の蔵経を受時するのである。僧家は皆、持戒清淨にして禅定明徹となるであろう。その時、僧中には大導師があるだろう。如来正法律の主である。末世の像法・末法における諸宗に異なり、直に仏世の聖教量を以って七衆を済度したまうのだ。その時、大寒大熱なく五穀豊穣、綿帛金銀が乏しいことはない。四季に花があり、童子・奴婢に至るまで皆礼儀を知り、乱語雑儀もない。

脚註

  1. 内證智ないしょうち 仏陀の悟りそのもの。言語として他に開示する以前のその境地そのもの。
  2. 諸流しょりゅう 真言密教には一般に野沢十二流といい、平安期に成立した小野六流と広沢六流の計十二の流派があり、それがまた近世に至るまでに三十六流にまで分立していた。
  3. 事相じそう 密教(三密瑜伽)の修習など実践面を云う語。教理的・思想的面をいう教相に対する語。
  4. 次第しだい 経軌所説の瑜伽法を修法のため簡便に整理したもの。
  5. 經軌きょうき 密教経典と儀軌。
  6. 相承そうじょう 特に口伝・口説・師説と云われる、ほとんどの場合経軌に基づかない独自の伝承。何か根拠に基づいてのことであればいいが、ただ他との差別化を図るために設けたに過ぎないのではないかと疑われる、合理的意味も根拠もまったく認められない説が多くある。そのような「伝承」の乱脈・無秩序は近世やはり問題視され、慈雲以前には特に浄厳によってその改正が図られていた。
  7. 折紙おりがみ 修法の次第や要文等を抜書して折った紙。
  8. きみ 君主。ここでは特に天皇。
  9. 彌勒みろくの出世 釈迦牟尼仏の滅後、五十六億七千万年後に仏陀となるべく兜率天から下生すること。その際、龍華樹の下で成道し、三度に渡って説法するといわれることからこれを龍華三会あるいは彌勒三会という。

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