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Dharmacakra
智慧之大海 ―去聖の為に絶学を継ぐ

智廣 『悉曇字記』

原文

第十五章
na盎迦na盎迦nana應機na蓊芶倶口反na蓊鈎倶候反na於項反na蘡介na擁句na擁憍脚傲反na盎鑑na盎迦去已上伽字上用na盎字。冠之生十二字
na盎佉na盎佉平生十二字同上迦字用麼多及呼字轉聲法下同
na盎伽na盎佉平生十二字同上
na盎伽上重na盎佉平重生十二字同上
na並將冠上四字之首不復自重後皆效此已上牙聲之字皆用盎聲
na安者na安遮生十二字同上此nana字之省
na安車na安車生十二字
na安社na安闍生十二字
na安社na安闍重生十二字
na爲上四字所用不可更自重已上齒聲之字同用安音阿亶反
na安吒na安吒平生十二字
na安侘上丑加反na安侘生十二字
na安茶na安茶生十二字
na安茶上重na安茶重音生十二字
na爲上四字所用不可更自重此字有自重者便屬別章則大呼拏音非盎拏也餘並同此也已上舌聲之字同用安聲
na安多na安多生十二字
na安他na安他生十二字
na安挓na安挓生十二字
na安陀上重na安陀重音生十二字
na爲上四字所用不可更自重若重屬別章已上喉聲之字同用安聲
na唵跛na唵跛生十二字
na唵頗na唵頗平生十二字
na唵婆na唵婆生十二字
na唵婆上重音na唵婆重生十二字
na爲上四字所用不更自重已上脣聲之字同用唵聲
na盎也na盎耶生十二字
na盎攞na盎囉生十二字
na盎攞na盎攞生十二字
na盎嚩na盎嚩平生十二字
na盎捨na盎奢生十二字
na盎灑na盎沙生十二字
na盎娑na盎娑平生十二字
na盎訶na盎訶生十二字
na盎叉na盎叉生十二字
右此章字兩字重成不得依字呼之異於諸章故云異章然盎安等將讀之際潜帶其音亦不分明稱盎安也

第十六章
na訖里na乞里na佉里na佉里重音na齕里na齒里na質里na實里na實里重音na日里已下並同吉里反伹用於下合之讀者取其聲勢亦有用麼多得重成字用非遍能生也

第十七章
na阿索迦生十二字na阿索佉已下各生十二字na阿拕伽na阿拕伽na盎迦怛囉
na阿嚩遮na阿伐車na阿伐社na阿伐闍na阿社若
na阿瑟吒na阿瑟侘na阿拕荼na阿拕荼na阿瑟拏
na阿薩多na阿薩他na阿伐拕na阿伐拕na阿勒多薩那
na阿薩波na阿薩頗na阿拕婆na阿拕婆na阿勒叉麼
na阿勒叉微耶na阿勒叉微釐耶na阿刺多na阿多迦嚩na阿吒奢na阿吒沙na阿沙訶na阿婆叉已上一章重文讀之皆帶阿聲連促呼之此章亦除濫字又合娑訶字唯三十三字皆通十二字加麼多也其於字母不次者分入後章

第十八章孤合之文
na阿跛多na阿吒迦na阿娜薩嚩na阿吒瑟車囉
右此章字類流派無盡或通三五麼多讀之並同上章當體重兩nanananana那等字並依本字大呼多則不得云多多也聯聲字na上麼下盎迦後字之聲入於前似云莽迦也用此章字皆然兩重麼多字na部林na齒林na已上字有第六及第十一麼多讀之皆帶兩聲也此na是第六麼多分布於傍也 半體文na多達又作na皆同也na秖耶當是耶字之省也 印文字na是室梨字西域爲印也 此類甚多略出其状也前叙云囉於生字不應遍諸章謂第二第四五六七章用之其字則屬第八章也若第三及第八章用之成當體重非此章字也若第九已下四章用之則更重重全非字也其囉字當體重及重章中當體重書者至此伹存一重字不須生十二也雖或有用處亦通三五麼多非遍能生故不入此生字之内縁存一當體重字故云容之勿生也後第十八云或當體兩字重之伹依字大呼謂多闍吒拏等各有重成也等者等餘字母並有重成之用也伹大呼之不得言多多囉囉等也

悉曇字記

寛文己酉仲秋日開焉釋澄禪

訓読

第十五章
naアウキャnaアウキャnaヲウnaヲウnaヲウゴウ倶口の反naヲウコウ倶候の反naエイ於項の反ゲイnaエイカイnaヲウコウnaヲウカウ脚傲の反naアウゲンnaアウギャ去。已上、伽字の上にna盎字をもってこれを冠して十二字を生じる。
naアウギャnaアウギャ平声。十二字を生じる。上の迦字の麼多を用い、および字を呼び、声を転じる法に同じ。以下同じ。
naアウギャnaアウギャ平声。十二字を生ずること上に同じ。
naアウギャ上重naアウギャ平声・重音。十二字を生ずること上に同じ。
na並に將に上の四字の首めに冠しめて復た自重せず。後ち皆な此に效へ。已上、牙聲の字なり。皆な盎の聲を用ふ。
naアンジャnaアンジャ十二字を生ずること上に同じ。此のnaは是れña字の省なり。
naアンジャnaアンジャ十二字を生ず。
naアンジャnaアンジャ十二字を生ず。
naアンジャnaアンジャ重。十二字を生ず。
na上の四字の爲に用ひられ、更に自重すべからず。已上、齒聲の字なり。同く安の音を用ふ。阿亶の反。
naアンnaアン平。十二字を生ず。
naアン上。丑加の反。naアン十二字を生ず。
naアンnaアン十二字を生ず。
naアン上重naアン重音。十二字を生ず。
na上の四字の爲に用ひられ、更に自重すべからず。此の字に自重有る者の、便ち別の章に屬す。則ち大呼して拏の音なり。盎拏と云には非ず。餘、並に此に同じなり。已上、舌聲の字、同く安の聲を用ふ。
naアンnaアン十二字を生ず。
naアンnaアン十二字を生ず。
naアンnaアン十二字を生ず。
naアン上重naアン重音。十二字を生ず。
na上の四字の爲に用ひられ、更に自重すべからず。若し重は別の章に屬す。已上、喉聲の字なり。同く安の聲を用ふ。
naアムnaアム十二字を生ず。
naアムnaアム平。十二字を生ず。
naアムnaアム十二字を生ず。
naアム上重音naアム重。十二字を生ず。
na上の四字の爲に用ひられ、更に自重せず。已上、脣聲の字。同く唵の聲を用ふ。
naアウnaアウ十二字を生ず。
naアウnaアウ十二字を生ず。
naアウnaアウ十二字を生ず。
naアウnaアウ平。十二字を生ず。
naアウシャnaアウシャ十二字を生ず。
naアウシャnaアウシャ十二字を生ず。
naアウシャnaアウシャ平。十二字を生ず。
naアウnaアウ十二字を生ず。
naアウnaアウ十二字を生ず。
右、此の章の字は兩字りょうじ重成じゅうじょうするを、字に依て之を呼ぶことを得ず。諸章に異る故に異章いしょうと云ふ。然もアウアン等とまさに之を讀まんとするあいだに、ひそかに其の音をたいして、亦た分明ふんみょうにせずしてアウアンと稱す。

第十六章
nananana重音nanananana重音na已下、並に吉里の反に同じ。伹し用るに下に於て之を合す。讀まん者の其の聲勢を取れ。亦、麼多を用て有れども、重て成字の用を得ること遍能生に非ず。

第十七章
naキャ十二字を生ず。naキャ已下、各十二字を生ず。naキャnaキャnaアウキャ
naシャnaシャnaシャnaシャnaシャ
naシュnaシュnananaシュ
nanananana
nananananaシャ
naシャnaシャnananaシャnanana已上の一章、文を重ねて之を讀め。皆な阿聲を帶して連促して之を呼べ。此の章には亦た濫字を除き、又た娑訶の字を合して唯だ三十三字なり。皆な十二字に通じて麼多を加ふ。其れ字母に於て、次でならざるは分て後の章に入る。

第十八章孤合こごうの文
nanaキャnanaシュシャ
右、此の章の字類じるい流派りゅうは無盡むじんなり。あるい三五さんご麼多またに通じて之を讀ぶことならびに上の章に同じ。當體とうだい重兩じゅうりょうnanaシャnanana等の字なり 並に本字に依り大呼して多なり。則ち多多と云ふことを得ず聯聲字れんじょうじna上は麼、下は盎迦。後の字の聲を前に入て莽迦と云ふに似たり。此の章の字を用ふこと皆な然なり兩重りょうじゅう麼多またの字、naロンnaロンnaウム 已上の字に第六及び第十一の麼多有り。之を讀に皆な兩つ聲を帶せり。此のnaは是れ第六の麼多なり。傍らに分布す半體はんだいもんna多達たたつ。又の作りna皆な同じなり-ya當に是れ耶字の省なり印文いんもんの字、na是れ室梨字なり。西域には印てと爲す。 此のたぐい、甚だ多し。略して其の状を出すなり。さきじょに、アラ生字しょうじに於て諸章に遍すべからずと云ふは、謂く第二・第四・五・六・七章に之を用れば、其の字則ち第八章に屬すなり。若し第三及び第八の章に之を用れば、當體重とうだいじゅうと成る。此の章の字に非ず。若し第九已下いげの四章に之を用れば、則ち更に重重にして全く非字ひじなり。其のアラ字の當體重と、及び重章の中の當體重とは書かん者の、此に至てただし一の重字をあるよ、十二を生ずべからず。或は用る處有て、亦た三五さんごの麼多につうずと雖も遍能生へんのうしょうに非ず。故に此の生字のうちに入れず。一の當體重の字をるにるが故に之をれて生ずることなかれと云ふなり。ちの第十八に、或は當體とうだい兩字りょうじ、之を重せば伹し字に依て大呼たいこせよと云ふ。謂くシャ等におのおの重成有るなりとうとは、餘の字母じもひとしくす。並に重成のゆう有り。伹し之を大呼せよ。多多タタ囉囉アラアラ等と言ふことを得ず。

悉曇字記

寛文かんぶん己酉きゆう仲秋日開焉澄禪ちょうぜん

脚註

  1. 第十五章

    na迦(ka)・na遮(ca)・na吒(ṭa)・na多(ta)・na波(pa)の音列の最後にある字、すなわちṅa哦(ṅa)・ña若(ña)・ṇa拏(ṇa)・na那(na)・ma麼(ma)をそれぞれ音列の最初の四字の上に加え、更にまたṅa哦(ṅa)を遍口声のllaṃを除いた九字の上に加えた章。冒頭の字を採って「盎迦章」と称され、また他章と規則の異なることから「異章」と云われる。
    12×4×5+12×9=348字

  2. 第十六章

    llaṃ字を除いた体文三十四字に別摩多ṛ紇里(ṛ)を合わせた章。冒頭の字を採って「紇里章」と称される。
    12×34=408字

  3. 第十七章

    特に規則なく切継にて諸字を成す章。冒頭の字を採って「阿索迦章」と言い、憶え難いことから「難学章」と称される。
    12×33=396字

  4. 阿聲あしょうたいして連促れんそくして...

    何故、智廣がこのようなことを述べたか不審。ここで智廣がいった諸字に「阿」の音など表されておらず、また実際の梵語として「a」をその発音に帯することはない。これは如何なることを意味するかといえば、その発音に際する口の形を「阿」と発するときのようにすること。そもそも「阿」を実際の発音に伴わせることは字形・字音・字義から離れる。したがって、表記に「阿」があったとしてもこれを発音してはならない。

  5. 第十八章

    以上の十七章に載せられなかった字の十二転を補遺として載せた章。「孤合の文」の章とされるように、一章から十七章における規則からは外れた独自の字を載せるもので、理論上は「無量」とされるようにその他全てが摂せらえる章であるが、ここではその例示として数字のみが挙げられる。

  6. 三五さんご麼多また

    既述(②-註.35)。宗叡は摩多の第三と第五、すなわち(i)と(u)とするが、慈雲は「三五」を少々の意とする。

  7. 當體とうだい重兩じゅうりょう

    当体重両。同じ字を二つ重ねること。自重に同じ。

  8. 本字ほんじに依り大呼たいこ

    当体の字、例えばna(tta)を「多多(tata)」と発音せず「多(ta)」と発すべきこと。大呼は一声にて発音せよとの指示。

  9. 兩重りょうじゅう麼多またの字

    摩多が二つ点じられた字。例えばna(a)以外のnaなど九韻いずれかが点じられた字に、さらにna(-ṃ)あるいは-ḥ(-ḥ)が付された字。

  10. naロン

    bhrūṃ.
    bha婆(bha)字とra囉(ra)字の二合、na(bhra)に、摩多-ū(-ū)と-ṃ(-ṃ)を付した字。

  11. naロン

    chrūṃ.
    cha車(cha)字とna囉(ra)字の二合、na(chra)に、摩多na(-ū)とna(-ṃ)を付した字。

  12. naウム

    huṃ.
    ha訶(ha)字に、摩多-ū(-u)と-ṃ(-ṃ)を付した字。

  13. na多達たたつ。又の作りna

    既出(②-註.24)。怛達に同じ。体文に付して母音を脱落させる記号。

  14. -ya

    既出(①-註.42ya(ya)の半体(下部)。

  15. na

    śrī. 幸運・繁栄・栄光・光・力などの意。
    śanaの二合、śra(śra)に、摩多-ṛ(-ṛ)と-ī(-ī)を付した字。
    ただし、異本ではśrī(śṛī)とする。

  16. 澄禪ちょうぜん

    悔焉澄禅(1613-1680).近世江戸時代前期の真言僧。智積院の学匠、運敞僧正に師事。特に悉曇学に打ち込んで功を挙げた人。朴筆を用いたその書法の流麗さでよく知られる。一行『一行禅師字母表』・空海『梵字悉曇字母并釋義』・澄禅『悉曇連声集』を集成した『悉曇字母表并釈義』を開板した翌年、本書もまた出版するなど悉曇学の興隆に勤めた。自らもまた『悉曇愚鈔』を著すなどした。

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